□「世界と心中」
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ぼん-よう【凡庸】

(名・形動ダ)

すぐれた点がないこと。
また、そのさま。
平凡。
また、その人。
凡人。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  『世界と心中』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「凡庸」。まるで自分の為に存在しているような言葉じゃないか。ツナは常々そう思っていた。

そしてその事をだいぶ年下の─だけど至る所で伝説をうちたてている、ツナは手も足も出せない─家庭教師に話すと、
彼は少年とは思えない氷のまなざしを返してきた。
「…本気で言ってんのか、それ」
「何で?あったりまえじゃん。」
窓からは初夏の涼しげな風が吹いてくる。
危ないから窓を開けるのは止せと言っていたリボーンも、何度言っても聞かないツナに呆れたのか。
最近は何も言わずにただ窓の外に鋭いまなざしを投げつけるだけになった。
「凡庸、か…」
リボーンがニヤリと笑う。
「寝言は寝て言えよ、ボス」

ツナは嫌な顔をした。この家庭教師兼殺し屋は、ツナがボンゴレファミリーの10代目になっても
「オレはお前の家庭教師だからな」と嘯き、ボスとは決して呼ばなかった。呼ぶ時は大抵からかわれている時だ。
寝言にしてぇよ。イタリアンマフィアのボスなんぞ、誰が頼まれてもやるかよ。
心の奥で吐き捨てる。もちろん顔には出さない。ボスになってからすぐに身につけた術だ。

凡庸。いい言葉じゃないか。
窓の外に目を向ける。鮮やかな緑色の葉が光を受けきらきらと輝いていた。

辞書を引くと何て書いてあると思う?
「すぐれた点がないこと。平凡。」だぜ?
たとえ、
『職業:自由業(マフィアのボス)』でも。家庭教師が凄腕ヒットマンでも。
常に自分を愛していると公言して憚らず頬を染めながらすり寄ってくる爆弾使いと爽やかに肉体関係を迫る元クラスメイトで野球選手だった侍が喧嘩をしながら両脇を固めていても。
困った時には兄貴分のキャバッローネファミリーの跳ね馬がすぐさま飛んできて事態をひっかき回しては必ずツナにプロポーズをしては帰っていっても。
乙女回路をもつトンファー使いが言うことを全く聞かず暴れ、ツナの怯える顔を見てはサディスティックにほほ笑み、稲妻分け目の変態が隙さえあればツナを押し倒し様々なプレイを強要してきても。

「うん、オレは凡庸だよ」
ツナは力強く頷いた。

その目はどこか遠くを見ていた。
 

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