文
□なみだのばくだん
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「坂下、りんご。」
顔を合わせた瞬間に言い放たれた。
「りんご、むけよ」
真夜中にいきなり押しかけて一番に言う言葉がそれか。いやむしろ何故オレがこいつにりんごなんぞむいてやらなきゃいけないのだ。
********************** なみだのばくだん
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ふざけんな、と怒鳴ろうと顔を見た瞬間。
色素の薄い葉山の目からポロリと涙がこぼれた。
「…何泣いてんだてめぇ」
「泣いてない」
ぽろぽろと丸い涙を流しながら葉山ははっきりとした口調で否定する。
「またエディにいじめられたのか?」
わざとからかうように言うと、また涙があふれた。
「…その名前を呼ぶな」
そして早く部屋に入れてりんごを食わせろ。
まだまだ涙は涸れない。
開けたドアからは冷たい風が入って来る。
葉山の長い髪がさらさらと流れた。
「坂下、寒い。」
当然、といった風に命令してくるこいつも最低だが、
「りんごなんかよりもっとうまいもん食わせてやるよ。」
誘いに乗った上に自爆している自分はクソだ、と思った。