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まーた、あいつ授業に出てない。




授業が始まるなり、銀八がやる気のあるのかないのか分からない声色で呟いた。誰のことを言ったのか、そんなのクラス全員が知っている。ついでに、誰に言ったのかも。





「…探してきます」




「おー、頼むわー」





不本意だ。極めて不本意だ。しかし奴を引きずって来れるのは、この校内であたししかいない。がたりと椅子を鳴らして、立ち上がる。クラスの視線が、あたしに集まっているのが分かる。同情のような尊敬のような。




その刺さるような視線を振り切るように教室を出ると、向かうは校舎一階、端の部屋。保健室だ。がらりと扉を開けるが、見える範囲内に人はいない。





「晋助、いい加減さぼんのやめてくんないかな」





その度に幼馴染みだからとか面倒臭い理由で呼びに行かされるあたしの身にもなってくれ。そう続けながらベッドの前にかかった白いカーテンを勢いよく開けた。





「…あれ、あんたまじで具合悪かったりする?」




「…そーだよ」





どーせいつものように携帯いじるか漫画読んでんだろう、という予想の斜め上。晋助はまさかの冷えピタをおでこに張り付けた状態でおとなしく寝込んでいた。





「熱あんの?」




「…三十八度」




「うおおおお」





普通にもう病人じゃないか。確か晋助は平熱低めな体質だったはず。それでその熱はさぞしんどいのだろう。短く息を吐きながら、少し赤く染まった顔でこちらを見てくる。うげ、そんな目で見んな。顔立ちだけは整ってるんだから、思わずどきりとしてしまう。





「…何しに来たよ」




「銀八から呼んでこいって言われた。けどそんなんじゃ無理だね、一応知らせてくるからおとなしく寝とけもしくは今すぐ帰れ」





「この状況で自力で帰れると思ってんのか」




「まあ無理だろうね。タクシーくらいなら呼んでやる。あ、料金はちゃんと払えよドラ息子」




「誰がドラ息子だクソ女」





これだけ憎まれ口を叩くくらいならまあ大丈夫か。そう思ってポケットに入れていた携帯を取り出した。タクシーの番号なんてメモリーには入れてないけど、保健室の利用者も似たような手段を取ることがあるのか、電話の横に番号の書かれたメモ書きが貼られていた。あ、ていうかこっちの電話使えばいっか。携帯代もったいないし。白いぼろっちい受話器を持ち上げると、強い力で押し戻された。晋助の手が、あたしの手首を掴んでいた。





「…こんな状況で帰れる訳ねえだろ」




「いやだからタクシー呼んで」




「熱あんだって。冷まさねーと動けねー」





その割にはしゃきんと立ってるじゃないですか。晋助の言わんとしているところがいまいち読み取れない。動けないんならせめて放課後まで寝てそれから帰ればいいのに。というか帰れるんだろ体調的には。掴まれた手首に伝わるのは、高めの熱と、病人とは思えないほどのバカ力。そんだけ体力あるなら帰れるんじゃないだろうか。そう言おうとしたとたん、晋助の腕があたしを勢いよく引っ張った。足がもつれて倒れる、と思いきや冷たい床の感触は感じなかった。代わりに、さっきまで晋助が寝てたベッドの、温かさ。





「熱冷ますには適度な発汗って相場が決まってんだろ。てめえじゃ役者不足だがこの際いい、付き合え」




目の座った晋助の手が制服のスカーフに伸びて、あたしはようやく理解した。





「いやいやいやいやあんたバカじゃないの病人が何しようとしてんの大体ここ学校だろうが」




「保健室が何のためにあんのか知ってっか、」





あたしの必死の説得を全く無視して、高熱があるとは思えないほどのイケメン面で高杉はニヤリと笑った。嘘だろ。こいつ、まじだ。





「病気や怪我にかこつけていろいろヤれる場所だ、覚えとけ」





「覚えるかそんなん手え放せェェェェェ!胸を揉むなァァァァァ!」





風邪引き男子に気を付けろ!





ようやく解放されたのは放課後大分経ってからで、教室に置いてあるカバンを取りに行こうとあちこち痛む体を引きずって廊下に出ると鉢合わせした銀八に「首のそれ暫く痕残りそーだねー高杉もよくやるねー」とかにやにやしながら言われたので腹に渾身のグーパンチを入れてやった。誰のせいでこんな目に遭ったと思ってんだクソ教師が。




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