小説2

□埋めるのはあんたしかいない。
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右肩の蝶feat.臨也×正臣

【埋めるのはあんたしかいない】

※厨房援交正臣注意

今日だけで4524506698個の精子が死んでいった。
その内の1286311540個は俺ので、残りの3238195158個は今日初めて顔を合わせた名前すら覚えていない男の精子だ。

「君は本当に、浮気をするのが下手だねぇ。」
臨也さんは俺の汗ばんだ首筋を指でなぞりながら言った。その声は表情は嘲りで満ちていた。嘲りと言うよりは、悦楽混じりの呆け、いや、やっぱりこの人の事はよく解らない。
「浮気に上手いも下手もあるんですか」
「浮気っていうのは、恋人に隠れてやるもんさ。君は恋人に隠すのが下手過ぎる。ていうか、隠す気無いでしょ。」
臨也さんの指の下には赤く腫れ上がったキスマーク。何時誰がつけたのかは俺も覚えていない。一夜限りの相手にキスマークを残す馬鹿が居た何て予想出来る訳が無い。
「別に、浮気じゃ無いですよ。アルバイトです。」
「お金に困ってるなら俺のところで働けば良いのに。」
「ぜってーやだ。何されるか解ったもんじゃないっすよ。」
中学生の俺でもハンデ無しで出来るアルバイトなんてこれくらいしか無い。だからやってるだけの事。何ら特別な理由は無い。
「正臣くん、流石の俺もさ他の男に抱かれたあとの君を抱く気にはなれないんだけど。」
臨也さんはいつもに増して真剣な眼差しで俺を見詰める。冷たい目付きに熱い眼光。そういえばこの人は眉目秀麗だった。穢れを映すこの人の影にそう思った。
「こんな俺は嫌いですか?」
そう言った自分の声は、予想外に褪めていた。
「嫌いになったんならいいんです。俺だって元からあんたの事嫌いだったから。これでやっと二人の意見が合致しましたね。じゃあさっさと別れますか?」
どうして、どうして俺の声はこんなに震えているんだろう。顔ではちゃんと笑えているはず。噛み合わない自分の中での歯車。気持ちが悪い。
恐いのか、苦しいのか、寂しいのか、虚しいのか、何で?何が?解らないから恐いのかも知れない。
「…正臣くん、」
何だよその顔。
ああ、あんたにもそんな顔出来たんだ。
臨也さんは、とっくに気付いてるみたいだ。本当は俺だって、気付いていたのだけれど。
「嫌いになるわけ、無いだろ。」
臨也さんの腕の中が、こんなにも温かいと思ったのは初めてかも知れない。いつもこの人の腕で眠るのは暗闇の中だから。
「だって俺は人間を愛しているからね。」
もう聞き飽きた口癖。言い訳、前提設定。不器用なのはお互い様なのかも知れない。
本当は、ずっとあんたに壊してしまって欲しかった。どんなにあがいたって、どんなに遠くに逃げたって、結局は此処に戻ってきてしまいそうな気がするんだ。呪われた歯車の様に。

「臨也さん…」
「ん?」
「キス…して…」
塗り替えて、傷痕を消し去って。
埋められるのは、あんたしかいない。

Fin.

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