本日も晴天なり。

□序
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青来歴29年5月16日
エリーズ・ダリル・トーラス記

本来、航海日記とは、船長以下定められた者が、航海の記録の為に記すものである。
本官はその任にあらざるが、故あって、本日より、極めて私的にこの日記を記す事になった。
その理由とは―――まず、公的な、本船マルディット号の航海記録が、現状、捏造されていてもおかしくない状況である、というのがひとつ。
正確に、この船の現況を記録するものが、後々必要になるかも知れないという個人的見解によるものである。
それから、もうひとつには、有事の際、この記録を以て我が遺言と為すべく、これを書き綴るものである。

さて、何故、こんな切迫した前置きの上、書き始めたのか。
理由は、極めて単純なものである。上記に挙げた理由の根源もそこにある。

現在、本船マルディット号が祖国、キリアスを出港してより21日目。
本船は、出港16日目より、現在地を未だ割り出せぬまま、遭難しているのである。








「―――まあ、書き出しは、こんなものでしょうね」

言いながら、トーラスは一旦筆を置いた。
文を書くのは随分久し振りだ。昔は暇にあかせてつらつらと、よく何かを書きつけていたものだったが、今ではすっかり、自然な文の書き方など忘れてしまった。
それでも、何かを書き残して置かなければ、と思うのは―――少しだけ考えて、トーラスは軽く苦笑した。

「やっぱり、ユーリー兄さんの言った通りになっちゃったみたいですもんねえ。せめて遺言くらい残した方が、あの人も立ち直りやすいでしょう」

ひとつ、大きく息を吐き出すと、トーラスは筆を手に取った。
現況を詳しく書き連ねていく。
なるべく正確に、事実を―――淡々とした文章を綴りながら、彼は、そもそも、何故自分がこの船に乗ることになったのか、を思い出していた。

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