本日も晴天なり。

□第二章
1ページ/10ページ

21時。深夜勤務の当番が甲板に整列し、夜間勤務の兵士たちとの交代を告げる鐘が鳴る。
深夜当番は、日中のそれよりも人数が少ない。
現在地を見失っている今は、星の見える夜間こそ、星座から座標を割り出すチャンスだ。
航海士は総出で勤務にあたるべきなのだろうが、あいにく、空はどんよりと雲が覆い、月光さえまともには届かぬ有様だった。

「何だろうなあ、これ」
「普通、大時化の後は、雲が嵐の強風で流されて、しばらく晴れるもんなんだけどな」

気象学など爪の先ほども知らない水夫たちが、経験から、常識として備えている事実を囁き合う。
まともじゃないよ、と誰かが呟く通り、一種の異常事態の中に彼らはいた。

「私語を慎め!」

副船長、グリートン・ハルツの鋭い叱責が飛んだ。
兵士たちの交代と共に、水夫たちも勤務を交代する。
全員が整列し、彼の指示を仰ぐこの場に、普段なら私語などは一言さえ出るはずがなかった。
しかし、先の見えない状態がこうも長く続くと、さすがに皆が不安定になり始めている。
兵士たちはそれでも、厳しい訓練を乗り越えて着任してきただけあって、表面上はまだ平静を保っていた。
大したものだが、いつまで保つかな、とトーラスはやや他人事のように思う。

「リンバー水夫長は現在非番だ。代わって私が水夫諸君の指揮も兼任する。補佐に、一等水夫のジニー」
「俺ですかい?」
「そうだ。―――巡回はカイゼ少尉、アグモンド中尉」
「了解しました」
「了解です」
「檣楼にはミノーグ少尉、カイゼ少尉、アグモンド中尉が交代で立つように」

潮風に焼かれたガラガラ声で、ハルツが今晩の担当を確認していく。ハルツは中佐、今回がリバーニンと初の同船だと聞いた。
そうだろう、と頷ける程、リバーニンとは正反対の男で、いかにも海の男、といった、筋骨逞しい中年だ。
年齢を感じさせない機敏な動作と、いつも厳しい視線と口調が、船長以上に船員に恐れられている。

「―――それから、トーラス少尉」
「はい」

今夜、彼の担当は船橋、航海士として座標の特定にあたる作業を引き継ぐはずだ。
そう確認されるものと思っていたトーラスに、だがハルツは、険しい目を向けて口を開いた。

「本日より、夜間は雑役夫を第三層に下がらせ、士官の監視を付ける事になった。船橋の任務には、エンバーラント中尉が引き続き当たる。武器の装備を許可するので、充分に用心してこれを行うように」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ