本日も晴天なり。

□第四章
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こんな時でもなければ、第三層の任務は彼にとって、心安らぐひと時になっただろう。
しかしトーラスは、めまぐるしく頭を働かせながら第三層への階段を下りていた。
いやな予想ほどよく当たるもので、おそらく、自分が考えている事に間違いはないだろう。
だとすれば、この先、暴動が起きるのも時間の問題だ。
そうなれば、一層生死の危険が増す―――。
顎に手を当てて、ぶつぶつと口内で何事かを呟きながら歩くトーラスに、背中から生真面目そうな声が彼を引きとめた。

「待って下さい、トーラス少尉」
「―――え?」

我に返ったように足を止める。
振り返ると、イオゼルド少尉が小走りに自分を追いかけて来ていた。

「少尉は随分、脚がお早いんですね。同じように歩いていたのに、追いかけるのがやっとです」

嫌みのない微笑みを浮かべながら、イオゼルドはトーラスの隣に立ち止まった。

「初めて、同じ任務につきますね。宜しくお願いします。私は―――」
「イオゼルド家のエノン・ラルディック卿、でしたね。こちらこそ、不慣れですが宜しくお願いします」
「ご存知頂けましたか」

ぺこり、と小さく頭を下げたトーラスへ、イオゼルドはまたにこりと笑った。
貴婦人達が騒ぎそうな、いかにも貴公子、といった行儀のいい微笑みである。ずいぶん感じがいい。

「私ばかりご存知頂けると、ディシアがいらぬやきもちを妬きそうですね。いいネタをありがとうございます。後で存分に使わせて頂きます」

…おや?
トーラスは表情を変えないまま、内心で首を傾げた。
言っている内容と、裏のなさそうな貴公子然とした笑顔が、どうにも一致しない。

「えーと…それは?」
「ディシア…アグモンドは、大層あなたを気に入ったようです。勤務前のクソ忙しい時間に押し掛けて来て、人が準備をするのにも構わず、ベラベラと喋って行きましたよ」
「…イオゼルド少尉は、アグモンド中尉と親しいんですか?」
「親しいというより、腐れ縁ですね」

―――気のせいか。
今、目の前の貴公子面が、フン、と鼻先で、物凄く人の悪い笑い方をしたような気がする…。
目を白黒させているトーラスに、イオゼルドは泰然と、甘いとろけるような笑顔を見せた。

「どうしたんです、少尉。鳩が豆鉄砲食らったような顔をして」
「いや…あの、おかしいですね、耳の調子が…」

悪いのかも知れません、と続けようとしたトーラスを、美しい笑顔のままイオゼルドが遮った。

「お耳の調子はすこぶる良いように思いますよ、少尉。見た目と内面にはギャップがあるといういい見本なんです、私は。我ながら」
「……………」
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