本日も晴天なり。

□第六章
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トーラスの中で最悪の場合、と想定されていた予想が的中していた。
このままでは、多かれ少なかれ混乱が起きる。
統率の取れない人々ほど恐ろしいものはない。

ハルツの部屋を辞すと、見張りの二人に何があってもそこを動かないように伝え、トーラスは走り出した。

数の力が必要だった。
アグモンドかイオゼルドに声を掛けて、すぐにでも船橋へ急がなければならない。

勝算は、―――せめても、船長が不測の事態であると、自分が知っている事を相手がまだ知らない。
その点のみにあった。

第二層の長い廊下を、必死で駆け抜ける。
砲台の脇を、銃撃台の脇を通り抜ける。
その途中、グウェンが廊下の床板を磨いている姿が見えた。
ここで彼に会えたのは幸運だった。

「グウェン!」

声を掛けられた彼は、慌てた様子で周囲を見回した。

「ちょっ、おま、あれほど」
「そんな場合じゃない!」

いつにないトーラスの剣幕に、彼も何かを感じたのだろう。
手にしていた椰子の皮を放り出すと、足早にトーラスへと急いで来た。

「すぐに皆さんを集めて第三層へ。内側からバリケードを築くなりなんなりして、私か誰かが良いと言うまで、決して開けないで下さい」

それから―――、と続けるトーラスの瞳が、常の飄々とした彼からは信じられないほど、危機を知らせて爛々と光っている。

「―――第三層の銃撃台脇、2番目の保管庫に立て掛けてある銃の二列目だけが、今、船内で使える銃です。他には細工がしてある。必ず、これを、お持ちなさい」
「それは…」
「上手くいけば、この状態に決着がつきますよ」

少しばかり笑って見せたトーラスの肩を、グウェンががしりと掴んだ。

「―――上手く行かなければ?」
「………………」

一瞬の沈黙は、そのまま、トーラスの予想の最悪さを物語る。
ややあって、彼は口を開いた。

「…全員が、死にます」
「よし解った」

重い答えに、だが返答は極めて簡潔に返された。
グウェンは何と、トーラスの制服の内ポケットに手を突っ込んだのだ。

「ななななななな何を!?」
「これ。借りるぜ。あんたは剣の方がいいんだろ?」

抜き出された彼の手には、軍から支給された、トーラス個人専用の短銃が握られていた。

「右手。固いもんな、あんた。剣の修練を積んだ奴の特徴だ」
「グウェン…」
「俺、海軍に払い下げられる前は、私兵みたいな事をやってたんだ。使えるぜ」
「―――判りました」

二人はそこから少し離れた場所にいる雑役夫を見つけると、先刻グウェンに託した事と同じ事を伝えた。
仕事を途中で…と躊躇したが、自分の名前を出して急用を言いつけられたと言いなさい、とトーラスが切り返す。
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