本日も晴天なり。

□第七章
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船長室は、思った以上に荒れていた。

おそらく、段々と正気を失っていった船長の仕業だろう。
机の後ろの壁に大きく掲げられていた地図はずたぼろに破かれ、応接の為の椅子やテーブルにも、ナイフで削った傷や、銃弾を撃ち込んだ跡がある。

家具を使って扉を塞ぎでもしていたのか、本は床に叩き落とされ散乱し、空になった本棚が扉の近くに横倒しにされていた。

「…こりゃあ酷い」

アグモンドが、ぼそりと呟く。
その場にいた全員の内心を代表するかのように、彼は首を振った。

トーラスはその場に、水夫長、副船長の同席を求めた。
すぐに水夫長が部下に命じて、副船長を連れてくる。
それと同時に、第三層に避難していた雑役夫たちに事件の収束を伝え、武器を回収させたりもした。

絶食状態だった副船長と奴隷たちに、消化のいいスープを厨房へ頼んで作らせる。
そして、呆然としているジェス・エンバーラント、唯一船橋の詳細を話せる彼には気付けのアルコールを―――話を始めるまでには随分と時間がかかってしまうが、うやむやに事件を終わらせない為にも、それらの措置は絶対に必要だった。

…そうして、幾らかの時間が無為に消費されて、後。
ぽつぽつと、ジェスは語り始めた。













―――全ては、貴方が海軍に入隊した事から始まりました、とジェスは言った。

「ご存知の通り、私の母は、王宮の奥向き、後宮を共に取り仕切る、女官長の補佐を務めております。最近では、特に後宮の事を任され、王妃さまのお目にかかる事も多くなっておりました―――」

ジェスは三男、という事で、家督を継ぐ事もない気楽さから、早々に海軍へ入隊していた。
時折の休暇で帰宅する折には、簡単には家に下がる事の出来ない母を訪ねに、必ず王宮へ足を運んでいたらしい。

母との面会で、王妃と顔を合わせる事は勿論なかった。
が、それでも。

「何かの話題に上ったのでしょう。王妃様は、私が海軍にいるとご存知のようでした」

―――そして、今回の、トーラスの入隊である。

「…王妃様は、何故かエリーを恐れておいででした。私の王子が玉座に上るのを、一番に邪魔する男、と…」

やっと自分を、昔からの愛称で呼んでくれた青年に、トーラスは少しばかり泣きそうになる。
彼の心の重圧は、いかばかりのものだったのだろう。

「…今年の新兵が出揃った季節の事でした。私は、久々の休暇の折に、また母を訪ねに王宮へ参りました。…と、その帰りがけに、宰相殿からお呼び出しを頂いたのです」
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