本日も晴天なり。

□第一章
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「どう見ても愁嘆場です。国務尚次官ともあろう方が、みっともない。実の弟に恋着してどうするんです」
「恋着はないだろう恋着は!私はな、トーラス家の長兄としてだな、」
「しかし、だ。エリー」

憤慨するユーリーをさらっと無視して、ソフィアがトーラスに冷やかな視線を向けた。

「兄さんの話にも一理ある。今からでも遅くないから、任務に就く前に退役した方が無難だと私も思うぞ」
「ソフィア兄さんまで、どうしたんですか」

トーラスは少しばかり驚いて、フォークを持ったまま次兄を見つめた。
昔からソフィアは冷静、冷徹で、兄ユーリーを心から敬愛するあまり、そのユーリーに可愛がられている自分には全く興味がなくなってしまった人だった。
それが、今になってこんな事を言い出すとは、意外と言う他ない。

「私も、口を開くのが遅かったとは思っている。今回もお前は頃合いを見て、とっとと逃げ出すだろうと思っていたからな」

ソフィアは洗練された手つきでグラスを取り上げ、葡萄酒を一口、口に含んだ。
心を決めたようにそれを飲み込むと、改めてトーラスに向き直る。

「言った事はなかったが、お前は今まで、よくやって来たと思う。13で家庭教師からの授業を全て終えた後、どこも2年と保たずに学院を渡り歩いたな。神学、医学、天文学…士官学校に入ったのは19の時か」
「そうです」
「普通なら、とうに士官候補生は海に出ている年齢だ。お前がそのまま軍に進むとは、私には到底思わなかった。だから何も言わなかった」

うんうん、とユーリーが上座で頷く。
トーラスはいわゆる天才肌の人間だった。幼い頃は神童などと呼ばれたものだ。
必要な教育を家庭教師から受けるのでさえ、通常なら16歳までかかるのである。それを早々に終えた後、彼は幾つかの国立院を渡り歩いては、その専門家たちと同程度の知識を得てきた。
が、その専門家に望まれても、飽きた、これで充分だとばかりに、すぐにまた次の場所へ行ってしまう。
幼い頃は彼に、次代の内政を担うべきとの声も高かったが、そんな事を繰り返している内に、やがてそれは小さくなって消えた。
そして現在、トーラスは海に出ようとしている。

「お前は上手くやったよ。―――今や、お前に王位を望むものはごく少数だ。それが狙いだったんだろう?」

直截なものいいに、トーラスは苦笑した。
そうです、とは口にしないが、頷いたも同じようなものだった。

「私も、兄さんも、それは知っていたよ。始めから、な」

トーラス達の立場は、微妙なものだ。
兄弟の父、エウレン・トーラス大公は、現国王の、たった一人の弟―――つまり王弟だ。
そして父は、国王よりも先に子を生した。
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