本日も晴天なり。

□第四章
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―――本当に自分は、人間というものに対して勉強不足だった。
こんな風にきれいな顔をして、裏腹な台詞を吐ける人間というのもいるのだ。
トーラスは、妙な感動を覚えて青年を見た。自分自身で裏表、と言いきってしまっているのが、またいっそ清々しい。

「あ、何です、その顔は。そこは嫌悪感とか怪訝そうだとか、そういう顔をしなけりゃいけないとこですよ、少尉」
「そうなんですか?それはすいません」

いや、謝られても。と逆に戸惑うイオゼルドに、彼の困惑には気付かないまま、トーラスが追い打ちを掛ける。

「いやあむしろ感心しました。堂々としたものだなあ…と。そうおっしゃられるだけの自信が、少尉にはあるんだろうとお見受けしましたよ」
「…ディシアもまんざらバカじゃないらしい」

先刻までの、貴公子然とした、甘い微笑みはどこへ行ったのか。
イオゼルドは思いっきり人を食ったような悪い笑みを浮かべて、トーラスを見つめた。

「その通りです。性格が悪かろうと顔だけはいいんです、私は。それに不自由も感じてませんしね。少尉、貴方は、人を見る目がおありになる。大いに結構です」
「そうですか?私はここ数日、むしろ人というものの奥行に困惑しているところなんですが」
「いや、いい線いってますよ。面白い人だ、あなたは。これは、この先楽しくなりそうだな」

―――何でこんなに個性的な人ばかりいるのに、私はそれに気付かずにいられたんだろう。
トーラスは笑う青年をぼんやりと目に映しながら、改めておのれの不徳を嘆いた。
ぼんくらだった、としか言いようがない。

「ところで。そんな事はいいんです。聞きたい事があるんですが」

第三層への階段を降り切り、長い廊下が始まる部分に立ち止まる。
イオゼルドはひそめた声で呟いた。

「先刻の話ですが。副船長の更迭の―――」
「―――ああ、あの話ですね…」
「私には、どうにも判らないんですが。ハルツ殿が解任された場所にあなたは何かがあるようだが、それに何の意味があるんです?」
「ああ、それは―――」

言いさして、トーラスは辺りを見回した。

「…いや、幾らなんでも、誰に聞かれる場所で話す事ではありません。船倉に着いてからお教えしましょう」
「船倉に?―――しかし、それこそ、そこには雑役の者達が」
「彼らなら大丈夫です」

この青年になら、彼らと自分の関わりを知られてもいいような気がした。
そう、彼やアグモンド中尉―――料理番のヘイル青年。
話せば理解しあえるような人物は、きっといるのだ。
イオゼルドは僅かに眉をひそめたが、あなたがそう言うなら、と口を閉ざした。
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