本日も晴天なり。

□第五章
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出会い頭、開口一番にそう言われて、トーラスはがっくりと肩を落とした。
昼食時、士官食堂での事である。

「さすがに、持ってきた酒は全部飲んじまった。予定なら今頃、第一寄港地はとっくにすぎてたはずだったろ」

トーラスの落ちた肩になど目もくれず、アグモンドがどっかりと腰を下ろす。トーラスのすぐ右側で、木の椅子が乱暴な扱いに、ギシギシっ、と悲鳴を上げた。

「寄港地での下船は許可されてなかったはずですが…」
「お前、そりゃあ、蛇の道は蛇っていうだろ。食糧と水は新しく積みこむんだぜ?仕入れすんのは誰だよ?」
「料理番の方々です」
「ついでに、俺の酒も買って来て貰う話がついてたんだよ」
「いつからですか?」
「俺が海軍に入った時から」
「…つまり、どこの船でも常に飲んだくれて来てたんですね、中尉は」
「失敬な。酒は飲んでも飲まれるな、っていうだろ」
「とっくに飲まれてるその口で何を言うか。少尉、バカにかまってるとバカになりますよ、バカな話しかしないですから。バカはバカ一人で酔っ払わせておけばいいんです」

トーラスの正面で、イオゼルド少尉がにっこりと微笑んでいた。割って入ってくれたのはいいが、相変わらずの舌鋒である。
が、アグモンドは気にした風もない。

「バカと話すとバカになるってんなら、お前もとっくにバカだろうがエノン。バカとバカな話しかしてこなかったんだからよ」
「バカとバカな話を続けても、バカにならない耐性がある人間がいるという事だろう。私は少尉とは違って、捻くれているからね」
「自覚はあるのか」
「お前こそ、バカの自覚を持ったらどうだ。少尉に御迷惑だろう」

水を向けられても、トーラスは力無く笑う他ない。
まったくのどかな食事風景だったが、それも、彼らのいる席の周囲だけの事だった。
昼時を過ぎて、遅れた昼食を取る士官の姿はまだ多くあるが、皆一様に、暗い顔をしている。
先の見えない不安、というのは、見通しがつかない、というその一点で、何よりも人の心を沈ませることができるのだ。

「で、午後からは何だって?」

酒がねえなら仕方ねえ、と、アグモンドは肉詰めの燻製を茹でたものと、蒸かしたじゃがいもの皿をつつき始めた。
はなから酒を飲むつもりだったのだろう、昼食というより、まるっきり酒のつまみといったメニューだ。

「私は上甲板で、銃撃台の点検です。ついでに、銃そのものの点検もしようかと思っていますが」
「そういうのは先人衛隊の仕事だろ。航海士は何か違う事があるんじゃねえのかよ」
「うーん。航海士らしい仕事は、今は何もないんですよねえ…」

それに、とトーラスは小声で付け加えた。
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