本日も晴天なり。

□第六章
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そうして第二層を駆け抜け、階段を上り、第一層に出た二人を待っていたのは、探していたはずの当のイオゼルドだった。

「少尉!」
「少尉!探していたんですよ」

出会い頭に、言葉が重なる。
巻き毛の青年は、トーラスの後ろに銃を手にしたグウェンの姿を見つけて、その甘い顔立ちをひどく険しく歪めた。

「そちらでも、何かが?」
「そっちもですか。―――何がありましたか?」
「ミノーグと連絡が取れません」

イオゼルドは忌々しげに吐き捨てた。

「今、あいつは船橋に軟禁されているみたいなものですから。定期的に、私と連絡が取れるよう、手段を決めていました。けれど、もう6時間、連絡が取れません」
「―――事態は急を要します」

トーラスは、ハルツから得た情報を手短に語った。

「…おそらく、ミノーグ殿に何らかの危害が加えられたものと思います。そして、何故状況がそんな風に急変したか。―――死人が出ているはずです。航海士長か、船長かどちらかが」
「では…」
「数が必要です。すぐに船橋を制圧できるだけの人数が。仲間内で、一番階級が高いのは誰ですか?」
「ミノーグかリグアルですが…」
「では、リグアル大尉に、水夫の皆さんと、その他乗務員を抑えて頂けるよう、指揮権を行使して頂きたい。向こうが船長命令でもって、私たちを拘束しにかかって来たら、もうどうにもならなくなります」

そうなる前に、兵士たちの統率権を奪うんです。
そう告げたトーラスに、イオゼルドはちょっとだけ笑った。

「ならば、それはリグアルでは無理です。砲撃士長は中佐ですし、あいつより階級が上の人間はごまんといる」
「ですが!」
「だが、あなたなら出来る。―――エリーズ卿」

へ、と目を丸くしたトーラスに、イオゼルドは、助かった、とでも言うような顔をしてみせた。
これで全ての解決策が見つかった、とでも言うような顔だ。

「あなたならやれます。エリーズ・ダリル卿。貴方がお悩みの王位継承権は、こういう時こそ何よりも役に立つんです。あなたより身分が高い者など、この船には誰もいない」
「ですが…」
「せいぜい、あなたの伯父上の御威光をお借りするといい。あなたに背くことは、貴方を害する事は、陛下をそうするのと同じだと。―――それでひれ伏さない者はいないでしょう」

ですが、と青年は続ける。

「あなたが矢面に立ってしまう事にはなります。人々の、そして敵の目も、一斉にあなたに向いてしまう。―――が、我々が全力であなたをお守りしましょう。やって頂けませんか?」
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