さぁぁぁぁ

『雨…か』

 空を見れば灰色の雲が空一面に広がっていた。
もう少しすればもっと酷くなるだろう雨をぼんやりと見る。

「……どうした」

 不意に後方からする声に振り向けば六合が私を見ていた。

『いや…とくに何もない』

 それだけを言って簀子に座ると彼も横に座った。
何も話さずただ二人で雨を見る。

『もうこんな時期か…』

「?」

 ぽつりと呟けば六合は不思議そうに私を見る。

『春一番だな…と思って』

「あぁ…」


  ざぁぁぁぁ

 段々雨脚も強まり風も出てきた。

『………』

 ゆっくりと立ち上がり何となく庭に出ようとすると六合に腕を掴まれる。

「濡れるぞ」

『平気だ。それに…自然を感じたい』

 掴まれた腕をやんわりとほどき庭に出れば、雨は容赦なく私を濡らす。

「どうした」

『え?』

 六合の質問の意図がわからず首を傾げる。

「お前らしくない…」

『………』

 私は六合の言葉に苦笑し何でもないと言った。

『ただ…時が過ぎるのが早いと思っただけだ』

「………」

『此処に来て充実な時を過ごして……』

『でも…』

 何時か…別れがくるのだろうか…。

 そう呟けば微かに目を丸くする六合。
実際戻れるか分からないけど、強制的に戻されることがあるかもしれない。

「………」

 ぽんっと頭に触れる優しい温もり。

『六合、濡れるぞ』

「……今を見ればいいだろう」

『?』

「分からないなら後から考えればいい」

『……』

「先を見れば今を厳かにする」

『そっか…。そうだな』

 六合に言われた事がすっと入り悩んでた自分が馬鹿らしく思えた。

『いかんな。雨は気分を沈ませる』

 小さく笑い空を見る。
相変わらず雨は降り風も強まるがこの小さな嵐が過ぎれば暖かい日に変わるだろう。

「気は済んだか」

『あぁ。…戻ろうか』

 随分と濡れたしな。六合に笑いかければ彼も頷き二人で邸の中へと戻った
春一番
『布、用意しとくべきだったな』

「………」

「何でそんなずぶ濡れなん?…しかも六合も一緒なんか」

『秋羅、ちょうどいい。拭くもの頼む』

「ええけど。…桜春にまた怒られるで」

『「………」』




春一番とは2月下旬から3月中旬頃にある嵐の事。


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