企画SS

□そんな一瞬の出来事
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桜が満開になった。
大きなカバンを肩から提げて並木道を歩く。
二歩前には俺の恋人。空を覆い隠すほどのピンク色を見上げて可愛い笑顔を溢していた。


ああ、心配だ。



「こーら。前見ないと転けるぞ。上を見るのはシートを敷いてからにしような」
「はーい」



少しだけ頬を膨らまして言う返事。拗ねたってすぐに何かを仕出かしてきたんだから、説得力はありません。溜息一つ。

すると、彼女は「それなら早く行きましょう」と言わんばかりに駆け出した。





(こら!走るな!桜は逃げないぞ!)





そう言いたかった。
でも、出来なかった。
時が止まったように思えたんだ。




突然吹いた強い風。それは、今まで舞っていた花びらだけじゃなくて、新しい仲間を連れて来る。けど、たくさんの薄ピンクは舞わない。目の前を一筋の線を引くように通り過ぎる。

そして風は止まった。

予想以上の花びらが、ひらひら、ひらひらと上から下へ舞い降りる。



あいつは、その中に立っていた。
立っているのは当たり前なんだけど、その一枚、一枚を愛しそうに見つめる、蜂蜜のように甘い瞳をしていた。





それがなんだか儚かった。





あいつが、人間ではない何かに見えてしまったんだ。
それが、女神か妖精か、分からないけれど、たぶん、全てを愛する美しさが出ているもの。
だから、消えるかと思ったんだ。このままたくさんの花びらに隠れて、どこか、違う世界へ行ってしまうと。












「月子」
「ん?なぁに?」
「―いや、何でもない。さ、早く行こう。お腹すいたろ?」





彼女をこの世に引き留めるように声を出した。少し震えてしまったこと、気付かれたか?
だけど、それくらい喪うかと感じたんだ。それだけは耐えられない。











こいつは、俺の恋人なんだ。










title:そんな一瞬の出来事
writer:みさきうみ

企画に参加させて頂き
ありがとうございました!


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