「えーっと、…うん」 「……………」 私は何も言えなかった。誰もがこんな惨劇を目の前にして言葉を言えるわけない。 偶然顔をひょっこり出した錫也だって、ほら、苦笑い。 ああ、なんでなんで。 「月子」 「…はい」 「…何を作ろうとしたの?」 「…ケーキ、です」 料理の腕、上がらないんだろう…。 真っ黒焦げのスポンジに、散乱してしまった材料。電子レンジは焼いている最中に、黒い煙を出した。 もう、上げる顔なんてありません。特にキッチンをお城としている真正面の幼馴染み兼、恋人…には。 「月子」 「…はい」 「材料、まだある?」 「…はい」 勿論、自分の腕前は承知しています。だから失敗することも考えて、多めに材料は用意してあった。 おずおずと指差し、そこにあるレジ袋と冷蔵庫を見ると、錫也は「よし」と言った。 「錫也?」 「一緒に作ろうか」 「えっ!?」 「えっ…て、ダメだったか?」 「…えっと…」 確かに、錫也がいれば百人力。きっと美味しいケーキが完成する。 でも、料理がからっきし駄目なことなんて知ってるくせに、一人でケーキを作ろうとした理由はちゃんとあった。 ―ちゃんとしたものを作りたい。 ―理由をあまり言いたくない。 ぐるぐると堂々巡り。 「月子?」 おでことおでこがコツンと合わさる。視線が合う。 それから一回触れ合うキスをした。 「教えて?」 ああ、もう。 私は彼の笑顔とお願いに弱いんです。 「だって…錫也の誕生日…」 「え?」 「錫也の誕生日にあげたかったんだもん…」 「―…っ!!」 驚いた顔をしたと思ったら、次の瞬間には満面の笑顔。 分かってるよ、錫也。 貴方は優しいから、きっと。 「その気持ちだけで充分だよ」 ほらね。 私の罪悪感をあっさり和らげて、嬉しくさせる。 「ありがとう、月子。一緒に作ろう?それから一緒に食べよう?お前の泣きそうな顔より、笑った顔が誕生日に見たいんだ」 優しさが愛しくて。 甘さが愛しくて。 貴方が愛しくて。 私は彼の腕に飛び込んだ。 気持ち伝われ! (錫也) (ん?) (…ありがとう) (…こちらこそ、ありがとう) Happy Birthday ☆ Suzuya!! |