SHINeeの自由帳V

□one last love
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殺してやる
殺してやる

殺してやる…




【one last love】




当日2歳にも満たなかった私の娘は、

ショッピングセンターで買い物をしていたところ、見知らぬ男に頭を果物ナイフを刺されて死んだ。


それはあまりに唐突過ぎる理不尽な出来事で。



私の時間は

そこで歩みを停めた。



 ・・・



その日は
いつものように養母のところに定期連絡をして、家に帰るところだった。


バスに乗った次の瞬間だ。


あの男が現れたのは。


私は慌ててしゃがみ込んだ。


娘を殺した犯人は、
この2年出てこなかった。指名手配のかいもなく、まったくあしどりの掴めなかった憎い男が今、私と同じバスに乗っている。


私の血管が膨れ上がり、男を殺してやると気持ちが逆立った。

ゾワリ、と全身の毛が逆立ち、一瞬で血液が沸騰する。

私の気持ちはまさにそんな感じだった。




 ・・・



彼女がそんな女性だとは知らないジョンヒョンは、

今日も同じバスになった彼女にそわそわを繰り返していた。


ジョンヒョンはもう彼女に会うために毎日のような同じバスに乗っていた。


彼女は何をしてるのか、毎日なぜ同じバスに乗ってるのか。

ジョンヒョンには気になって仕方がない。

そのくらい、ジョンヒョンは毎日彼女を熱心に見ていた。

その憂いた瞳が、いつもどこを見つめているのか知りたかった。


ジョンヒョンは、今日こそ彼女に声をかけると決めてた。



 ・・・



時を同じくして、

彼女の方はと言うと、鞄の中に入っていたシャーペンを握り、殺意を燃やしていた。

復讐する時間は今しかない。

彼女はグっと握った手に力を込める。

喉元ならいけるはずだ。

彼女はもう完全に復讐心に駆られていた。

燃えるような激しい殺意を目標の男に置いて、その瞳にしっかりとその姿を見据える。




「  」

バスは次のバス停を告げる。



 ・・・



ジョンヒョンはそこであれ?と思った。

いつもならそこは彼女の停車駅だ。

追い掛けてきた、片思いしてきたこの間、彼女の降りる駅は一度だって変わったことはなかった。


ジョンヒョンは彼女を見つめる。


その目は、ジョンヒョンが今までみたことないくらい深刻な目だった。

普段憂いたどこか物悲しい表情しかしていない彼女の瞳には今、

たしかに何かの炎が宿っていた。


ジョンヒョンはそこで、

今彼女の中に確かに、ただ事ではないなにかが起こってるんだってことを認識した。

そのくらい、

ジョンヒョンには彼女の意志を読み取ることができるくらい、彼女の顔をいつも見つめていたから。

ジョンヒョンの勘は確信に変わる。

彼女が見つめている先の男。

ジョンヒョンには見覚えがあった。

もともと記憶力はいい方で。とかく人の顔に関しては名前よりもよく覚えるよう記憶していた。


ジョンヒョンは携帯を取りだし、ある番号にかける。

ここならば男の末路を想定の範囲へ導いてくれる。

そう判断できるところへだ。


ジョンヒョンはあとは残る彼女が今、炎の宿る目で何をするかを最大限考えた。

そうして、

そっと自分の席を立ち上がった。


客を掻き分けるように、一番うしろの席から、真ん中の彼女のところまでやって来て、そのうしろにピタリとくっついた。


「止めてください。貴女が手を汚す必要はないんです」

囁くようにそういうと。

右手に握りしめていた彼女のバッグの中の手がビクリと揺れた。

予想通り、武器を所持していたみたいだった。


そうっと腕を伸ばし、バッグの中の彼女の手に自分の手を重ねた。


彼女の手から、スルリと細いなにかが滑り落ちた。

アイスピックのようななにかが、鞄の中に落ちて。

俺はその鞄を、

彼女の手に指を絡めたままそうっと自分の方に引っ張った。



「  」

バスは次のバス停の名前を告げる。





降りようとした犯人の様子に肩を揺らす彼女を後ろから押さえて、

「警察に連絡してあるから」

と囁いた。



抱きしめた君の目から、

俺の腕に涙が零れた。



ぽたり、と2つめの涙が床に零れた時。


バスはバス停に到着した。


あとはもうすごい騒ぎで。

辺りは一面警官に囲まれ、

騒然となった普段は静かな住宅街の真ん中で、


事件は終止符を打った。



 ・・・


「ありがとう…誰だかわからないけど」

「名前を名乗ってもいい?」

「え?」


君の降りるバス停で。

俺と君はそこではじめて向き合って話を交わした。





「俺の名前はキム・ジョンヒョン」

「私の名前は…」


言おうとした彼女の口に、ジョンヒョンはそっと指を当てて言葉を止めた。


そこにはたしかに、温かなぬくもりが生まれていた。


だけど、

二人はたしかにそれ以上の会話をしなかった。



名前も知らない彼女に背を向けて。


ジョンヒョンは静かにまたバスに乗って遠ざかっていった。



バス停にはただ、彼女だけが取り残され。





 
 心の中に、彼の名前だけが残った。













きっと次に逢ったら…



(ぼくはきみとこいをする――)







one last love…


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