SHINeeの自由帳Z

□離してしまった手
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もし、君が今日俺の前に現れてくれたら、きっとそれだけで俺は心より喜んで。それだけで幸福なプレゼントをもらった気持ちになるだろう。





もし、
そんなことが叶うなら・・・









【離してしまった手】






・・・




ジョンヒョンはガコンッ、とドアの内側についているポストをあけた。

手紙は入ってない。

小さな小包も入ってないことを覗き込むようにしてよく確認した後。ジョンヒョンは小さく溜め息を吐いて、肩を落とし、また今来た廊下を静かに足音を響かせて戻っていた。

まだ誰もいないリビングを見渡し、ソファーの上に置かれてた新聞が、"昨日"の日付であることを確認する。たしかに4月8日。昨日はジョンヒョンの誕生日だ。

自分の誕生日に届く気がする、とある一枚の紙を待って、もう2年目になる。

まだ2年。されど、2年・・・。1年は365日ある。その1年を、たった1日・・・その日のために待ち続けて過ごしている。



だけど2年目の今日・・・

やはり手紙はこなかった。



今となっては、どうして彼女の手を自分が離してしまったのか、よく覚えてない。
繋がれているはずだった。放したつもりなんかなかった。だけど彼女はあの日・・・








『誕生日に手紙を送るわ』








そう、言い残して姿を消した。メールも電話も繋がらなくなった。彼女の消息が消えて、もう2年が経った。今さら諦めろという思いと、今さら諦められない・・・想いが交差して、いつまでも俺を悩ませ、縛り付ける。

ふっきれないのは、"彼女がなぜ俺から離れたのか"その理由がわからないから。

本当に失踪したみたいに、彼女は消えてしまった。

今思えば、忙しくて彼女の話をうわの空で聞いていたことが原因だったのかもしれないとか、なかなか会いに行く時間がとれなかったのがいけなかったのかもしれない、とか。理由はたくさん出てくる。

でも、そんなのは今までもたくさんあったし、そんな理由で彼女がいなくなるなんて思えない。思いたくない。俺たちは十分に解りあっていたし、俺はやまほど彼女を愛してた。

そんな彼女が、


俺の誕生日に"手紙を送る"と言ってきた。

いつもなら何かしらのサプライズやびっくりするようなプレゼントを用意してくれる彼女が、俺の誕生日に1枚の紙を贈ってくるなんて・・・


おもえば、そこからおかしかったのかもしれない。俺がそのことを言われたのは、ちょうど2年前の誕生日の1週間前だった。仕事に忙しく、その日もなんとなく電話に出た彼女の言葉に、半分も耳を傾けてなかった。

けど、耳から聴こえる彼女の声に安心して、俺は大した心配もしてなかった。

「もうすぐ俺誕生日だけど?」茶化すようにそう言うと、彼女はその時、


ほんの少しだけまじめな声で言ったかもしれない。

『誕生日に手紙を送るわ』、と。



今ではもう、その言葉だけが頼りで。寝ても覚めてもこの言葉だけが、何度も耳の奥で反芻する。

あの時、


たしかに彼女は、少し笑って俺に「手紙を送るわ」と。呆れた声でそう、言ったはず、なのに。


年月が経つにつれ、思い出の声はいつの間にか暗く、闇に飲み込まれそうなほど悲しい声に変わっていた。

それは日々を重ねるごとに俺を責めるようになってきて。


あの時。彼女はいったい何を俺に贈ろうとしていたのか?




・・・今ではそればかりが気になって。

わけもなく郵便物ばかりが気になる日々。

あれから、一度だって連絡をくれない彼女を、一度は家まで押しかけたこともある。けど、教えられていた住所はもぬけの殻だった。管理人さんに無理を言って開けてもらったけど、中は何もなかった。手紙も落ちていない。メールアドレスも変えられて、電話番号も繋がらない。

俺は途方に暮れた。


探すことに執着した1年も過ぎれば、2年目は少しずつ期待も色褪せてきた。けど、君に捨てられた実感がわかなくて。

決定的なサヨナラを言われたわけじゃない。

だからこそ余計に・・


この気持ちのやりどころがわからなくて悩んでいる。



もう2年。




俺はこのまま君を好きでいていいのか、それとも捨てられたことを受け入れなくちゃいけないのか。



・・・悩み続けている。





宿舎の窓辺に寄りかかっておでこをガラスにくっつけ、ベランダの向うに見える景色に目を落とす。


せわしなく動く朝の人通りに、行き交う車たち。この街のどこかに、まだ君は居るんだろうか。ワールドワイドなんて世界規模になれば、俺の歌はどこかで君に届いているんだろうか。

俺の声は・・・・



君にちゃんと届いてるんだろうか・・。




昇り始めた日の光を浴びて、ビルのガラスがキラキラと輝きだす。

その反射で、車の屋根が光り、ゆっくりと上がってきた太陽がビルの隙間に入れば、道は途端に光の線を描く。


眩いほどに光るアスファルトの大通りを見下ろし、俺はちかちかする視界を部屋の中に戻した。



部屋は今日も、昨日と何も変わらないような風景のままだった。


3年目も、同じ・・・。



せめて、誕生日に何をくれるのか、教えてもらっていればよかった。


そうすればこんなに悩まなくて済んだのかもしれない。


たとえそれが、"別れのカード"だったとしても。



郵便事故なのか、君が単に俺を縛り続けているだけのか・・・


それはもうわからないけど。


けど、もし

もし、昨日という年に一度、願って何でも俺の欲しいものが手に入るのなら――・・・





その答えを口に出そうとして、俺は一人鼻で笑って窓の外を見た。




太陽はすっかり登って、高層ビルのマンションのこの部屋、フローリングについてる俺の足元まで光を運んできた。




「まだ俺にその覚悟がないだけなのかもしれないよな」





俺は窓の向うの街を眺めた。








願うなら・・・


"そんな手紙など来なければいい"




そう思っているからきっと・・・・・






これからも俺に君からの誕生日プレゼントは届かないんだろう。


君がこれからも永遠に俺を縛り続けてくれていることが、


今の俺には毎年のプレゼントと同じなのだから――・・














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