SHINeeの自由帳]
□Dreaming Boy
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予想通り、僕の恋は成就しなかった。
思春期真っ只中の若造の本気なんて、はなから君の相手になんてされてもいないし、掠りもしてなかったのかもしれない。
とにかくある日、君の指には知らないきらきらした指輪がはまってて、そして僕にこう言うんだ。
「・・・テミンくん、私・・・この春結婚するんだ…」
その瞬間から、僕と彼女がいた進路指導室が、一瞬にして色を変えたように見えた。
いや、実際に変わったのかもしれない。
灰色になった。
真っ黒になったんじゃない、目の前が、どんどん色を失っていったんだ。
窓の向うの青空だけが、やけに誇張したみたいに鮮明に見えて。
ああ、この空間だけが灰色になったんだ、って。
僕はその瞬間から世界の意味を見失った。
【Dreaming Boy】
予想通り、あの進路指導室の一件以来、僕の成績はガタガタ。みるみる落ちていって、一気に100番落っことした時はさすがに母親を呼ばれた。
そうして僕の成績で受かったのが、今の、この高校だ。
ランクで言えば中ぐらい。可もなく不可もなく、良くもなければ悪くもない。そんな平凡な学校だ。
行ければどこでもよかった。
ただ、ここよりも1つ上の高校に行くと、面倒くさい連中にからかわれるのが嫌だからここにした。僕が行きたかった高校はそいつらが受かる高校よりワンランク上の高校だった。お前も落ちたのかよ、なんて。間違ってもあいつらに自分と同じレベルだなんて思われたくない。
そう考えたら、
自然とここしか残らなかったんだ。
ここは田舎だから、僕が住んでる地区から通う連中も少なかった。
知人が少ないっていうのはいい。
僕と先生のことを知ってる人間がほとんどいないんだから。
今僕は、ぼくであって僕ではない。
僕はもうナニモノでもない。
そう思った時、
僕の頭にふと、あれが思い浮かんだ。
・・・・・・ダンス。
ナニモノでもない、ただの飾らない、空っぽのイ・テミンになった時、僕の頭の中にはあのダンスを踊ることだけが残った。
僕は、踊る事が好きだ。
もともと、ダンスの才能を見出して、引き出してくれたのは、僕の先生だった。踊ることのたのしさと、自分を表現できる手段を、ダンスで知って、ダンスで教わった。
踊りは僕を解放してくれる。
僕の青春と生きがいは、まさしくその渦の中にあった。
だけど、もういらないと思った。
何もなくなってしまっていいと。
有名な高校に進んで、ダンスの道を究めようと思った。
そのために熱心に勉強した。
褒められてはうれしくなり、僕は順調に大人になるための階段をまっすぐに登っていたんだ。
いい高校に入って、いい大学に入って、そして僕はダンサーになる。
――そう、夢見てた。
その夢が、ぜんぶ。こわれたのに。
僕はまた、ダンスをはじめようとしてる。
「どうして、ここにきちゃうかなぁ・・・」
放課後の校舎は、しーんと静まり返って。
とくに2階なんてほとんど人なんて居ない。
僕は生徒会室のドアの前に立ち止まって、その鉄製の扉を眺めてた。
僕が手にしてたはずのダンス部の勧誘のチラシは、ある時ここの部屋の勧誘のチラシに変わってた。
・・・・生徒会。
ほとんど無縁だと思えるここの存在が、最近どうにも気になる。
忙しいのかあまり活動してないのか、中に人がいるのをあまりみた事がない。もっとも、部活に属してない僕は、放課後ほとんどすぐに帰ってしまうので知らないだけかもしれないけど。
僕はあれ以来、ここの部屋の前によく来てしまう。
ポケットに入っているのはダンス部のチラシなのに、なぜだろう。
「今日も、いないのか・・・」
テミンがそう呟いて足を返した時、
中でオニュが、応接室で使わなくなったのを生徒会室に置いたままにしている黒革のソファーで寝転んでたなんて知らない。
寝返りを打って、だらんと片腕を地面に落っことしたオニュを、テミンは目撃することなく、その頃には下駄箱で靴を掴んでた。
昇降口に響き渡る校内放送のチャイムのあとに流れてきたのは、懐かしいミノ先輩の声だった。
一緒にやった体育委員が楽しくて、結局また体育委員になってたことを思い出す。結局自分は過去を振り返ってばっかりなんじゃないか・・・。
テミンは考えて首を横に振った。
そして、砂埃のたつ地面に置いた、埃っぽいローファーに足を突っ込んで、鞄を肩にかけた。
テミン、高校一年生の、春。
【Dreaming Boy】
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