SHINeeの自由帳]
□かなり情けない
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テミン「さっきのファンの子、ハイタッチって言うか、握手だったよね?」
トイレ休憩のあと、テミンが小走り気味に近づいてきて、僕の横にいたジョンヒョンの顔を覗き込んだ。
ジョンヒョン「んあ?」
ジョンヒョニヒョンは首を回しながら間の抜けた返事をする。
テミン「さっきヒョンと挨拶してた子だよ〜犬のTシャツ着てた子の前!」
オニュ「ワンチャンキヨワ〜」
テミン「覚えてないの?」
ジョンヒョンはまだ小首をかしげる。
僕らの並び順は、オニュから始まって、ジョンヒョン、もう一台の机の方にテミンと僕が座っての4人体制。
いちばん端っこの僕は、来た人がどんな風に表情を変えて、どんな風に僕のところにまで到着するのか、じっくりと人間観察できる。
パーテーションの向こうからやってきた人が、まっさきに僕と目があったら、この人は間違いなく僕のファン。
その代わりに、全然目が合わなかったら、他の人のファン。
やってきたファンの子が、僕の好きそうな色合い、派手目な色、個性的な洋服、ショートパンツ、とかだったら、8割以上僕のファン。
ワンピースや控えめなカジュアル衣装だったら、前2人のファンの確率高し。
僕はそんなことを考えながら肩肘をついて、パーテーションの向こうを覗き込むようにしてファンの子がくるのを構えてた。
目が合ったら愛想笑いでもしようかな、とか。そんなことを考えて。
テミンが言っていたその子は、僕らとお揃いの白シャツに、英語かなにかキャラクターの絵柄が半身だけ入ってて、ショートパンツに、僕とお揃いの黒髪。
間違いなく僕のファンだと思った。
僕は目が合う前提でにっこりと口角をあげたけど、
視線の先に見えた君は、間違いなく後ろの人と話をしてた。
どうやら友達みたいだ。
アイドルを前にしてるって言うのに友達を気に出来るなんて余裕だね、と僕はハイタッチをする横目で君を捉えながら待った。
列に並んできた君は、オニュと丁寧にハイタッチした。
言葉は交わしてない。
間違いなく僕のファンだ。
そしてジョンヒョン。
触れるように、重ねた手。
その、手の冷たさに、一瞬驚いたように見つめあった後、
彼女はそっと、ジョンヒョンの手をつないだ。
握られた手に、一瞬だけ戸惑ったあと、
彼女と見つめあったまま、ジョンヒョンがきゅっ、とその手を握り返したのを、僕はこの目でハッキリと見た。
key「・・・・」
一瞬。時が止まったように思えた。
僕は頬杖をつくように腕を机の上に伸ばしたまま固まり、
彼女が来るまでの時間をただ持て余した。
彼女の前にもう人は居なくて。
僕は左手を上げたまま、彼女が来るのを待ってるしか出来なかった。
名残惜しそうにジョンヒョンから手を離す彼女は、そのまま何も言わなかった。
そのまま、帰ってしまいそうな勢いを、
テミンが差し出した手に止められ、
彼女はハッ、と気がついたように目を開いて、テミンを見下ろし、
苦笑いしていたテミンと、指先が触れるか触れないかくらいのハイタッチを交わして、
僕の前にようやくやって来た。
同じくほんの一瞬。ジョンヒョンにかけてた時間の半分にも満たないくらいの短い時間。
だけど、その黒髪の前髪の隙間から覗く瞳と、しっかりと僕の目は合っていた。
何か・・・言えればよかったのかもしれない。オニュヒョンみたいに。
だけど君は風のように去っていった。
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