携帯獣

想いの最果て
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私は誰よりも彼女を愛し何よりもあの笑顔を信じていた。美しい人間だった。幼いままの眼を真っ直ぐに私に向ける姿勢はいっそ凛々しくすらあった。忌み嫌われた私に希望をくれた。小さな手で私を救い上げてくれた。
けれど幸福に終わりがきて彼女と私は引き裂かれる。知らない男に無理矢理手を引かれて行く美しい彼女。待て、やめろ、その手は私の、私のものだ。

そこで私の記憶は飛んで気が付いたのは汚らわしい血液が水溜まりを作り始めた頃。余程怒りに侵食されたらしい、直ぐに男を殺してやろうと思った。だが男はトレーナー、より殺せる確率を上げようと一人の時を狙った。私は的確に命を裂く事ができたようだ。ざまあみろ。私と彼女の仲を裂くなど赦される事ではない、手足が胴から離れるのも道理だ。

これで邪魔な塊は無くなった。また彼女の温かな手に触れられるのだと身体は喜びに震える。好きだ。好きだ。口に出せない代わりにこうして行動に示す私。情けなくても構わない、彼女が好きだ。

彼女を見守る日々が戻って来た。男の死に悲しい顔を見せないのはやはり望んで男の隣にいたわけではないからだろう。私のした事は正しかったのだ。彼女にはずっと自由でいてほしい。

月日が流れる。彼女にまた男が近付く。汚い塊が彼女を束縛するなど赦さない。前の男然り、その男も万死に値する。汚い血肉をぶちまけてしまえ。

月日が流れ違う男が現れ私が荒れる。繰り返した制裁は何時しか人々の噂となってしまった。彼女に近付く男は、もういない。


「あの家に住んでる女の人、男の人を沢山殺したんだって」

「じゃあどうしてお巡りさんに捕まらないの?」

「お巡りさんも殺されるんだって、怖いね」


家の外ではしゃぐ子供達の話し声が聞こえたらしい。彼女は泣く。嗚呼、後であの子供達も殺してしまおう。彼女の為に。










想いの最果て
(もう彼女は笑わない)

end

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