『小さい子と海賊を合わせるとどうなるのか』検証レポート(嘘)

□シャンクスの場合
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▼『シャンクス』の場合


島に上陸していた者たちが、積み荷を持って帰ってくる。

それを走って出迎えるのは、この船ではいつも決まっている。


「おかえりなさーい!」


たたたたっと走ってくるのは、船に残していた小さな少女。

上がってきた船長に一目散に駆け寄って、そうして待ち焦がれたと言わんばかりの満面の笑みを向ける。
この船での紅一点であるななしは、もう一度、改めて船長に挨拶を。


「おかえりなさい!」

「あァ、今帰った」

「おそかったね!」

「ちょっと色々あってな…。良い子にしてたか? ななし」


赤い髪と左目の傷がトレードマークの船長は、そう笑って言いながらななしの頭を優しく撫でた。
船長…シャンクスの問いに、ななしは力いっぱい頷きながら「うんっ」と答える。


「ちゃんといい子にしてたよ! かしら!」

「おいおい、その頭ってのはよせって前にも言ったろ?」

「? なんで?」


ななしは小首をかしげ、疑問を口にした。

『頭』というのは、この船の中でシャンクスが乗組員から呼ばれている名。
つまり、それは彼が『この海賊船の長』であることを意味している。

周囲がそう呼ぶので、最近ではななしもそう呼ぶのだが、まだその意味を理解しているわけじゃない。
まだ、周囲の真似をして、呼んでいるだけだ。
呼ばれる側のシャンクスとしては、“正式な乗組員ではない”この少女に、『海賊』としての名では呼ばれたくなかった。


「なんでも、だよ」


言って、シャンクスはななしの目線に合わせてしゃがむ。
今度は力強く頭を撫でつけながら、もう一度言った。


「次からは、もう頭って呼ぶんじゃねェぞ」

「…じゃあ、なんて呼べばいいの?」


そう問われて答えを返す。
にぃっと笑う顔は、いつもの彼らしからぬ無邪気な顔で、


「普通でいいのさ」


とても優しい声で、少女に囁く。


「これからおれのことは、“パパ”って呼ん…」

「子供に何教えてんだ、アンタは」

「げっ、ベン…!」

「あ、ベンふくせんちょう!」

「ベンだ。“副船長”はいらねェと前にも言ったろ」

「はーい」


シャンクスの背後から現れた長身痩躯の副船長ベンは、船長をたしなめて同時にななしへの教育も施す。

シャンクスはベンの唐突な出現に驚いて慌てて立ち上がると、言い訳がましく急いで言った。


「あぁ、いや、違うんだベン! これは…その、冗談で、別に本気で呼ばせようとしたわけじゃ…」

「あるんだろ?」

「ま、まあ…ちょっとな…」

「まったく…。勝手に父親名乗ったりしないでくれ。本当の親が現れた時に困る」

「う…っ」

「それに“海賊の娘”だと変に誤解されたら、困るのはななしだ」


彼の言うことはごもっとも。


「…わかったよ。わかったからそう睨むなって」

「…目つきの悪さは元からだ」


的を射ているベンの言葉に、シャンクスは引き下がらざるを得ない。

確かに、偽とはいえ親子であると周囲に知らせるのはあまり良いことではないはずだ。
特に海軍なんかは…まあ血縁関係は調べてはっきりさせるだろうが、それでも目をつけられるのはマズイ。
まだ幼い少女を、危険に晒すわけにはいかなかった。

とはいえ、


「こんな可愛い子に、「パパ」って呼ばれて父親になってみるのも、悪かねェかと思ったんだが…」

「? パパってよんだらいいの?」

「!」

「!?」


口惜しそうにそう言ってしまったシャンクスの言葉を、ななしは聞き逃していなかった。きょとんとした顔でそう繰り返すと、シャンクスとベンは瞬時に起こった事態を理解する。

慌てて訂正しようと口を開くが、刷り込みが終わったあとではもう遅い。


「やっ、違うんだななし。さっきのは間違いで…」

「じゃあ、これからは“パパ”ってよぶ!」

「いや…だからな……」

「おーい、ななしー」

「はーい! じゃあまたね! ベン! パパ!!」

「アレは間違いで……」


なんとか訂正を試みたものの、ななしは呼ばれて船内の方へと走って消えていってしまった。

残された船長と副船長は、互いに違う色を浮かべて突っ立っている。


「どうしよう…」


船長は、焦りの色。


「どうしよう! ななしにパパって呼べって教えちまったァ!!」

「…どうしようもこうしようもないだろう」


副船長は、呆れの色。


「呼び名なんざあとでいくらでも変えられる。次の町に着くまでに、なんとかすりゃいい」

「……そ、それもそうか…。あァ、そうだ」

「まったく。しっかりしてくれよ、船長」

「でも…それにしても可愛かったよな。ななしが「パパ」ってよ」

「……アンタって人は…」


などと、船長が甲板で落ち着きを取り戻している間。

ななしは船内で乗組員たちに『パパ』のことを散々言い回っていた。


これにより、乗組員が船長を前より一層温かい目で見ることになり、
シャンクスに『親バカ』などと言う仇名が付くことになり(以前は『過保護』だった)、
副船長も妥協して、結局。

彼女がもう少し大きく育つまでの間、船長の呼び名が、

「パパ」で固定されることになる。









→結論。

シャンクスは『父親』になろうとし、まずは形から入る。
(過保護にはなるようだが、ロリコンではないらしい)






おしまい





§あとがき§
第一号は赤髪海賊団の大頭、シャンクス船長でした!
初なうえに下手クソで、大変にお粗末様でした(本当だよ)。
さらに、
ベンが…! 彼が寡黙すぎてあまり喋り方分からない…! という無残な結果に。

いろいろ勉強して出直してきます。
……こんな感じで色んな人に続きます…。
「もう無理!」と思ったらその場ですぐ読むのをやめて下さい。

一読有難うございます!
また次で、お逢いできます事を…。

霞世

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