『小さい子と海賊を合わせるとどうなるのか』検証レポート(嘘)

□エースの場合
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▼『エース』の場合

デッキに体を預け、じっと待つ。

その内、彼女より随分背の高い隣から、報告が聞こえた。


「どうやら帰ってきたみたいだな」

「ほんと!?」

「あァ、二番隊のご帰還だよい」


隣…一番隊隊長であるマルコからの報告を受け、心配そうな顔つきが一気に華やかな笑顔に変わる。
そうして一目散にななしは走っていき、次々と乗り込んでくる男たちの中から目当ての人物を見つけた。

白ひげ海賊団二番隊隊長 『火拳のエース』

咲いた笑顔は大輪へと変わり、ねぎらいの一言をかける。


「おかえりなさい!!」

「おう! 今帰ったぞななし、良い子にしてたか?」


こちらも負けじと子供っぽい笑みを浮かべ、ななしの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


「うんっ! マルコもいっしょだったからさびしくなかったよ!」

「……そうかそうか…」


笑顔いっぱいの報告を聞いて、エースはわずかに曇ったような表情になる。しかしななしの頭をぽんぽんと軽く叩きながら、相変わらず子供のような笑みは崩れない。


「マルコに変な事されなかったかァ? アイツも相当子供好きだから、そりゃあ心配で心配で…」

「…おめェと一緒にすんなよい、エース」

「あ、マルコ!」

「なんだお前。いつからいたんだよ」

「誰かがチビに鼻の下伸ばしてたときからだよい」

「みてみてマルコ! エースかえってきたんだよ!」


満面の笑みがマルコに向けられ、エースは少しだけ不服そうに眉根を寄せた。マルコはマルコでその表情の変化に気がつきながら「そりゃおれが言ったし、見りゃわかるよい」とななしの言葉に答えを返す。


「そうだ、エース。まちはどうだった? たのしかった?」

「んあ? …あ、あァ、楽しかったぜ。飯もウマかったしな」


突然ななしの会話の相手がマルコから自分へと帰って来て、エースは少しだけ身の入っていない答えを返す。もっともななしはそれに気づいておらず、むしろ食料調達のために降りていた町のことで頭がいっぱいのようだった。


「いいなー。わたしもまちにいきたかったなー」

「仕方ねェだろ、ななし。この島は危険が多すぎて、お前を降ろすわけにはいかなかったんだ」

「うん…わかってる。おとうさんもそういってたし…」


そう言ってななしは少しだけ表情に影を落とした。

彼女はこの船…白ひげ海賊団の中での『紅一点』。
その存在は荒野に咲く花のようであり、その笑顔には皆の心が癒される。

しかし同時に彼女は、“まだ幼い子供”でもある。

自分の身もロクに守れないななしにはまだ“お守”が必要で、治安の悪いところではいつ何時の“最悪”が待っているか分からない。
だから毎回、島へ降りる為の許可を、『おとうさん』こと白ひげから貰っていたのだ。


『治安の悪いところへ娘を行かせるわけにはいかねェ』


しかし、今回はいつものように許可が下りなかった。最初は少しダダもこねたが、父親の言うことに逆らうことができず、“息子”たちにもたしなめられ、お留守番することになったのだ。


『エースがななしを守れねェから言ってんじゃねェよい。仮にななし に“何か”があった時、死ぬほど後悔すんのはエースの方だろい』


そう言われては、「まってる」と言うしかなかった。


「つぎのまちでは、いっしょにいけるといいね!」

「あァ。ウマイもん腹いっぱい食わせてやるぜ」

「うん! エースといっしょだと、いつもおいしいものたべれるからすき!」

「はははっ、そうかそうか。おれもななしのこと好きだぜ」

「わたしもすきー」

「………」


“好き”って意味がズレてんじゃねェかよい。

なんてマルコは思うものの、あえて口出しはしないでおいた。

きっとまた口なんて挟んだら、エースが静かに殺気を撒きながら睨んでくるだろうことは容易に想像がついたから。
エースはななしの前では笑顔のくせに、他の男がななしに話しかけると、たとえ遠くにいても察知して、すぐ睨んでくるか会話に割って入って妨害しようとする。

それは、

『恋愛感情』から来るものか、

『子供の気を引こうとする』親の心理から来るものか、


「(……どっちにしろ、独占欲強すぎだろい)」


どうやら近くにいることもダメらしく、今マルコが傍にいても少し「近寄んな」のオーラが滲んでいた。
あえて全面的に出しているのだろうが、時々オヤジにまでそのオーラ向けんのだけは止めた方が良いんじゃないかとマルコは思う。…しかもオヤジもオヤジで、それを少し楽しんでいる節があるようだから困ったものだ。


「ねえ、エース。わたしね、けっこんするの!!」

「へぇ…そりゃあ楽………な、何!!?」


突然の「結婚します」宣言に、エースは思わず後ずさりするほど驚いた。マルコもその意味を測りかね、少し目を見開いて、足元でまだにこにこしている小さな少女に目を落とす。

…まあ子供の言っていることなので、信憑性は限りなくゼロに近い。
だが、話が飛躍しすぎているのと、あまりにもななしが幸せそうに笑っているので、なんとなく。そんな話があっても良いんじゃないかと、マルコはふと思ってしまった。

…おれも相当末期だよい…。


「………」


一方、わなわなと震える手でななしの肩をがっしり掴んで、エースは至極真面目な表情になった。


「……だ、誰だ…その相手ってのは…」


少女は笑みを崩さず、小さく「ぴんっ」と立てた指で、肩を掴んだ男を指差す。


「ん、エース!!」

「そうかエースって野郎……ん? おれか?」

「そうだよ! わたしエースのことだいすきだから、おっきくなったらエースとけっこんするの!!」

「………」


あっけない、というか冷静に考えれば、すぐに答えの見える顛末だった。

エースは安堵の表情で、空気の塊を吐き出す。
もし自分の知らない男だったら、今すぐ居場所を聞き出して婚約破棄させてやろうと目論んでいたが……血の雨が降らなくてよかった。


「……なんだ……おれか…」

「うん。……エースは…いや…?」


わずかに潤んだ瞳と曇った表情で、ななしはエースを見上げる。

その表情に一瞬だけたじろいだエースだったが、その内口の端に「ふっ」と笑みを乗せてななしを抱え上げた。
『たかいたかい』をするようにななしを抱き上げながら、


「嫌じゃねェさ! よし、ななしが大きくなったら結婚しような!!」


まるで小さな姫君を、皆へ、世界へと見せるように、エースは大きな声でそう言った。


「うん! やくそくだよ、エース!!」


これが、彼と彼女の、互いにとっての最初のプロポーズ。









→結論

エースは小さい子供も許容範囲内であり、その独占欲は誰に対しても強い。
本人曰く「ロリコンじゃねェ」らしいが、マルコから言わせれば「ロリコンだよい」だそう。






おしまい





§あとがき§
ようやくエースが出来ました。二番目とか言いながら実はキッド海賊団より書くのが遅くなっちゃったという罠…(順番不動なんですすみません…)。
マルコが結構出てきたのは、恐らく私のブームの所為なのでしょう。…構想では最初と最後くらいしか考えてなかった気がする…。
最後あっけなく終わってる気がしてならないのですが…なんか尻切れになってないだろうか……なってるかな…。しかも話も急展開過ぎるかな…過ぎるよな…すみません。

おそらくオヤジもマルコも皆も、ちっちゃい子は「娘」みたいで可愛いんでしょうね…!
「箱入りか!」って言いたくなるくらいに大事に大事に育てられたらいいです。そして逐一オヤジに報告する女の子になればいいな。

一読有難うございました。
まだまだ続きます。
また次で、お逢いできます事を。

霞世

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