『小さい子と海賊を合わせるとどうなるのか』検証レポート(嘘)

□クロコダイルの場合
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▼クロコダイルの場合

「ガチャリ…」とドアの開く音がした。

その音に顔を上げれば、大きな袋を手に持って男が立っているのが目に入る。
いつものように涼しい顔で葉巻を咥えながら、この部屋の“ボス”が帰宅した。


「あ、クロちゃん!! おみやげはー?」


元気いっぱいにそう言って、少女…ななしは両手を広げて駆けていく。
普通の人間なら男を見れば肩をびくつかせ、目を合わせず避けて逃げるところだ。しかしななしは臆することなく男を慕っていた。それが証拠か、ななしの表情には男に対する“恐れ”などはまるで無い。

駆け寄って来る少女を眺めながら、扉の前に立ったままでクロコダイルは手にした袋を床に置いた。「どさっ」と随分質量のある音が聞こえる。
その正体は、近くの町を襲おうとしていた“海賊”たちが持っていた宝だ。


「………」


あくまで黙ったままのクロコダイルの表情は無に近く、かと思えば「ふぅ」と溜め息に近い音で煙を吐き出す。
そうして、「たたたたたっ」と走ってきた少女が自分の足に飛びつこうとする刹那。

なんの躊躇も無く、少女の頭上に握った拳を一つ落とした。

「ゴツッ」と鈍い音が一発、部屋に響く。


「いっ…!!」


一瞬、ななしの目から星が飛び出したように見えた。


「ったぁぁぁぁぁぁっ!!!?」


その声は叫びに近く、ななしが悶えながら頭を押さえてうずくまったことは言うまでもない。

走ってきた勢いが加えられた結果だとして、それは自滅だとしよう。
しかし、いくら手加減しているとは言ってもクロコダイルの力は強いのだ。ななしとの身長差はかなりあるし、おまけに振り下ろした時の力も加わっている。
「痛い」程度で事が収まっているのが、奇跡だった。

「子供相手に大人げない」と言えばそれまでだが、どうやらクロコダイルにも言い分はあるようで。


「帰ってきたら一番に“言うべきセリフ”をおれは教えたはずだが…、もう忘れたのか?」

「うぅぅぅ……お、“おかえりなさい”…」

「あァ、戻った」

「……いたい…」

「最初に言うべきことを言わねェお前が悪い。それは“教育料”として受け取っておけ」


わずかに口の端をつり上げて笑うクロコダイルの足元で、まだ頭を抱えてうずくまっている少女は小さく「いらないよ…」と言った。

そうして勢いよく立ちあがり、かと思えば口を尖らせ


「“おんな”にてをだすなんてだめなんだよ! クロちゃん!!」

「女? それはどこにいる」

「めのまえだよ!! した!! ここ!!」

「……“ガキ”の間違いじゃねェか?」


確かにその通り。

まあ彼女の言っている「女」は『性別』で、クロコダイルの言う「女」は『年齢』なのだろう。二人の捉え方は違っているが、しかしななしはクロコダイルの言うように“まだ子供”で“ガキ”だ。その意見は間違っていない。

見下ろして当然のようにさらりと言い、「クハハハ」と独特の笑い声を洩らすクロコダイルに、さらに「むぅっ」とした顔をななしはした。
言い合いに関して言えば、“理論的にモノを言える大人”に“本能のまま話す子供”が勝てるわけがない。だが、ななしはまだ引き下がる気配を見せなかった。
ようやく引いてきた頭上の痛みを吹き飛ばすように、クロコダイルを「びしっ」と指差す。


「あたまをたたいたらバカになっちゃうよ! クロちゃんはわたしがバカになってもいいの?」

「それは加減してる。問題はねェ」

「でもいたかったよ!!?」

「………」


素直に感情だけを述べるところが子供らしい…といったところだろうか。

「痛かった」と言われて潤んだ瞳を向けると、クロコダイルは何かを考えるように一瞬だけ無言になった。
しかしそんな変化に気づけない“子供”のななしは、まだ指を差したままで


「“おんなのこ”にてをだしちゃいけません!!」

「………ほう…」


即座に「女」から「女の子」へと言葉を変えてきたななしに、クロコダイルは片方の眉を上げた。口の端にまだ笑みを浮かべている辺り、ガキのくせに言いやがる…と感心しているのかもしれない。

クロコダイルは置いていた袋を再び掴むと、ななしを通り越して歩いていく。その姿を追いかけるように振り返ったななしへ、背中越しに告げた。


「そこまで言うなら、おれが“殴りたくても殴れねェ”ような、“いい女”になってみろ」

「……いいおんな…?」

「そうだ」


それだけ言うと、言葉の意味を数秒考えていたななしは、小さく「……なる…!!」と言う。
ななしの言葉を聞いたクロコダイルの足が、ピタリと止まった。


「わたしがんばる!」

「お前に出来るか?」

「できるよ!!」

「“いい女”は難しいぞ。料理に勉強…すべてを“完璧”にしてこそ、“いい女”だ」

「うっ……べんきょう…」

「あァ」

「しなきゃ…だめ…?」

「“いい女”には必須条件だ」

「…じゃあ、がんばる…!!」

「そうか…」


苦手な“勉強”も「がんばる」と言い張ったななしの返事を聞き、クロコダイルはななしに背を向けたままでさらに口の端をつり上げた。
喉の奥で「くくくく…」と笑う声は聞こえただろうが、満足げに笑うその表情はななしには見えていない。

“第一段階”はクリア……と言ったところか…。


「まあ、精々頑張ることだな」

「やくそくはまもってよね! クロちゃん!!」

「クハハハハ。当然だ」

「いいおんなになったら、てをださないんだよ!?」


「おれは、約束は守る男だぜ?」と言いながら、クロコダイルは再び歩みを進める。

背中越しについて来ているらしいななしの気配を感じながら、まだクロコダイルは口角を上げたまま妖しく笑っていた。
恐らくななしに直接言っても“意味”を理解できないだろうし、説明を求められるだろう。それは面倒だったので、あえて言わずに心中で思っておいた。


「(“殴らねェ”とは言ったが、“手を出さねェ”と言った覚えはねェぞ)」


まあこの場合、“手を出す”ではなく“手をつける”と言う表現の方が正しいのだろうが。








→結論。

クロコダイルの『紫の上計画』、進行中。
(“食べ頃”は、もう少し先…)





おしまい





§あとがき§
クロコダイルとおチビをくっつけたらこうなりました…。大変お粗末さまでした。
まああの…ある意味アリガチな「自分好みに育てる」な話になってしまいましたが…。い、如何でしたでしょうか…?
結果的にこの数年後(気持ち的には7年後くらい?)には彼女はとてもいい女の子になり、そうして身も心も?クロコダイル色に染まるわけです。…ここでも両者の言葉の相違がありまして、彼女が真の意味に気付くのはきっともっとあとになるんでしょう。…意外と手をつけられたあとだったりして…。

「でも数年後って言ったら…社長は捕まってたりしないんですか?」
なんて原作沿いなことは言わないであげて下さい。今気付いて管理人自身が「はっ!」となりましたことは言うまでも無いです…。
…きっとまだ会社は設立してないんですよね! …その方が、きっと成長した頃にはアラバスタ編が始まって…こう……(うにゃうにゃ)。

連載クロコダイルとは違うイメージで書いたのですが、色気が……存分に出せなかった感が……ありますねorz
すいません、色気ある鰐にならなくてすいません…。策士的な鰐にも今一歩なりきれてない感が……出たような…。
数時間で書いてみたので、粗だらけになってしまいました。またどこかで「育てる計画その後」みたいなのが書ければと思います。


一読有難うございます!!
そろそろ場所を海軍に移そうかと思うのですが、果たしていつになることやら…。
まだもう少し続きましたら、お付き合いくださいますと幸いです。
また次で、お逢いできます事を。

霞世

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