『小さい子と海賊を合わせるとどうなるのか』検証レポート(嘘)

□大将の場合
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▼三大将の場合

「ぎぃ…」と、ゆっくりとドアが開く音が聞こえた。と同時に、小さく「…あれ?」と疑問の声が耳に入る。


「あ、きょうはみんないる!」


そうして声だけでも分かるほど元気いっぱいの声がして、青キジはかけていたアイマスクを少し外した。半分上体を起こして声のした方を見れば、閉じていたはずのドアが半分開いている。そのまま視線を下ろすと、小さな少女が顔を覗かせていた。


「おかえり、ななし。…用事は済んだかい?」

「うん! ただいま、クザン。しょくどうのおばちゃんにクッキーもらってきたの! みんなでたべよう!」

「じゃあ丁度良かったよォ、ななし。お茶ァ、淹れてくれんかねェ〜」

「うん、わかった! ちょっとまっててね、ボルサリーノ」

「ななし、淹れるんは手ぇ洗ってからにせい」

「はーい。サカズキも、おちゃいるー?」

「…当然じゃ」

「あ、いっしょにクザンにもいれてあげるね!」

「ありがと、ななし。じゃあおれは…」

「コーヒーでしょ? すぐもってくる!」


そんな会話をして、小さい少女…ななしはぱたぱたと足音を響かせて奥へと走っていく。

ここは海軍本部にある、総大将元帥の部屋…の隣の部屋。
当たり前のように大人三人がくつろいでいるのは、海軍本部に設けられているななしの私室だった。
室内にはぬいぐるみやら小物やらが置いてあって、いかにも女の子らしい。その中に体躯の大きな男三人が座っているのは、少し…いやかなり異様な光景だった。


「あ、そうだ」


しばらくしてから、奥からマグカップと湯呑の乗った盆を持ったななしが現れる。そうして、何かを思い出したように声を上げた。


「さんにんにね、ききたいことがあるの!」

「へぇ、…おれたち三人に?」

「うん」

「ななしが質問とは…珍しいねェ〜」

「………」


「はい、どうぞ」とななしは言って、まずテーブルに座る赤犬と黄猿に湯呑を渡した。そのあとで、ソファに座っていた青キジにマグカップを渡す。
三人は短く礼を言って受け取ると、それぞれに口をつけた。…淹れ方や味の好みを細かく教えただけあって、ちゃんと美味しく淹れてある。正直、他で出されるものよりよっぽど美味しい…とは、褒めすぎだろうか。

三人が一息ついている間に、ななしは空いている席に腰かけた。そうしてから、自分の為に淹れたココアに口をつける。自分好みの味に満足げな表情を浮かべ、マグカップを置いた。
周囲の大人たちと同じように一服して「あのね」と前置きしてから、お茶とコーヒーを飲んでいる大人三人をぐるりと見回す。


「さんにんは、“にーと”なの?」


そうして子供特有の元気をいっぱいに詰め込んで、ななしは笑顔でそう口にした。


「…!!?」

「ぶ…っ!!  ななし…急に何言ってんの…!?」

「…随分と、面白いこと言うねェ〜」


三者三様の反応である。

唐突に投げ込まれた爆弾に、赤犬は湯呑を傾けたまま固まった。青キジはコーヒーを吹き出しそうになりながらも何とか堪え、ななしの方を見て引き攣った笑いを浮かべている。黄猿は特に動揺した様子も無く、穏やかに笑っていた。


「…そんな言葉、どこで覚えてきたんじゃ」


一時停止から再び動き出した赤犬が、静かに湯呑を置く。その姿に数秒前の動揺はもう見えず、むしろ微かな怒りがあるように見えた。…とは言え普段から眉間に皺が寄っている所為で、その変化は分かりにくいのだが。

それが証拠か、ななしは目の前の怒りに気付かないまま「ん?」と小首を傾げて質問に答えた。


「このあいだ、しょくどうのテレビでみたの」

「……食堂か…。こりゃあ、あとで本部のテレビをすべて撤去せんといかんのう」

「えーっ、テレビなくしちゃうのー!?」

「…ちょっと待ちなって」


ななしが残念そうな声を上げる中、青キジはソファからゆっくりと立ち上がる。そうして出てきた生欠伸を噛み殺しながら、テーブルまで移動した。


「それはちょっとやり過ぎだろ」

「…ななしの教育に悪いもんを排除して、何が悪いっちゅうんじゃ」

「どうせ意味なんて分かって無いさ。なあ、ななし?」


恐らく食堂以外でも変な言葉を見聞きして覚えないように、すべてのテレビを捨てると言うのだろう。
教育面でも厳しい赤犬は、ななしを『絶対正義』に相応しい海兵にしようとしていた。悪い影響が無いようにと神経を尖らせるのも、分からなくもない。
…しかしまあ、その処置は少しいき過ぎていると思うが。

それに小さい子供は、たとえ見た物の意味が分からなくても何でも口にしたがるものだ。どうせ意味なんて理解してないだろうと、青キジは気楽に考えていた。
ところが、


「しってるよ!!」


同意を求めた先のななしは、ひどく不貞腐れた顔で声を張り上げた。


「しごとをしないで、ずっといえにいるひとのこと!」


しかも、その意味は間違ってない。


「わしらは仕事しちょる」


即答に近く、赤犬が反論する。三人の中で一番、その言葉に強い反応を示した。
どうやら仕事をしていないと言われたのが、相当心外だったらしい。一層眉間に皺を寄せて、怒気も少し強めている。…これがななしじゃなければ、マグマを食らって一発即死だ。


「第一、何処をどう見たらそうなるんじゃ」

「だって、ほかのひとたちはいっしょうけんめいはたらいてるのに、さんにんはここでおちゃのんだりしてるし」

「……」

「きのうだってそのまえだって、このへやにいたし…」

「あー、そりゃあそうなんだけどね、ななし」


その通りなだけに、上手く反論できない。
しかし、はっきりと言えることが一つだけある。


「でも、おれたち今日は仕事なの」

「? そうなの?」

「あァ。センゴクに呼ばれちょる」

「とは言っても、今ァセンゴクさんは出かけてるみたいだけどねェ〜」

「そう…なんだ…」


小さくななしが「ごめん…」と謝ってきたので、青キジは「いいのいいの」とゆるく返した。

今回は違ったが、しかしななしの言っていることがすべて間違いと言うわけでもない。

確かに三人は、時間帯は違えどしょっちゅうこの部屋に顔を出していた。しかも今日のような仕事までの時間つぶしもあるが、大半はななし自身に用件があって来ている。それは一緒にお茶したり遊んだり話をしたり、時々は勉強したり…。言い方は悪いが、入り浸っているわけである。
これが花も恥じらう乙女や成人の女ならば、かなりの大問題だ。しかし相手が小さい子供だからなのか彼らの肩書きの所為なのか、周囲は何も言ってこない。…まあ彼らの上司は、ちくちくと文句を言ってくるわけだが。

そもそも、大将の仕事なんてものは年に数えるほどなのだ。ななしが“仕事をしていない”と思うのも、仕方ないと言えば仕方ない。


「まあ、他で言ってなきゃ問題無いでしょ」

「………」

「…まさか、他で言うたりしとらんじゃろうな…?」

「……ごめんなさい…」


ななしは、蚊が鳴くような小さな声でそう言った。
どうやら、世の中と子供はそんなに甘くなかったらしい。


「…誰に言うたんじゃ」

「……げんすいに」

「あららら。…で、なんて言ってた…?」

「“その通りだ”って」


考える時間など一切無く、きっぱりはっきりとそう答えたそうだ。


「……元帥ともあろうもんが、間違ったこと教えよって…」

「まあ大将の仕事なんてあんまり無いから、皮肉言われても仕方ないけどねェ」

「お前まで肯定する気か」

「…ななしやセンゴクさんだけの所為じゃないってこと。第一、ななし に“仕事をしてない”と思わせたおれたちにも、問題あると思うけど?」


まあ確かに「仕事してないよ」と言われたことに対しては、流石の青キジでも失礼だと思うが。


「…とにかく、センゴクが帰ったら一言文句を言わにゃならんのう」

「あ……げんすいなら、さっきかえってきてたよ?」

「何故分かるんじゃ」

「しょくどうからかえってくるとき、みえたの」


けろりとした表情でななしが言うと同時、軽いノック音が聞こえてきた。四人がその音がした一点を見るより早く扉が開き、海兵が一人現れる。
ひどく畏まった様子のその海兵は、びしっと敬礼を一回した。


「失礼します。三大将、センゴク元帥がお呼びです」

「…隣の部屋なのに、随分遅いじゃない。さっき帰って来たんだろ?」

「あ…、申し訳ありません。“待合室”の方まで行っていたもので、時間がかかりまして…」


海兵はまだ敬礼をしたまま、深々と頭を下げた。
確かに、彼の言う大将専用の待合室のようなものはちゃんと用意されている。…だが三人は「この部屋が元帥の部屋に一番近い」と理由を付けて、ななしの部屋を勝手に待合室にしていた。大抵の人間は知っていると思っていたが、どうやら彼は知らなかったようだ。

恐らく、元帥も「呼んで来い」としか言わなかったのだろう。…隣の部屋にいるのだし、直接呼んでくれてもいいようなものだが。
「大変だねェ」と青キジが海兵の苦労をねぎらっていると、視界の端で赤いスーツが立ちあがるのが目に入る。


「ななし、わしらは仕事に来とるんじゃ。大事なことは先に言えと、前にも言うたじゃろ」


赤犬はそう言って、つかつかと大股で扉の方へと歩いていった。続いてそれを追うように、黄猿も席を立って海兵の方へと向かう。


「あ、…ごめんなさい…」

「ななしは悪くないって。あんまり気にしなくてもいいの」


小声で、そっと青キジは言う。仕事じゃない日でも部屋に来ている自分たちにも、非はあるのだ。いくら「働いてない」と言われたとはいえ、苛立っている赤犬の言い方は少し理不尽だと思う。

個人的にはもう少し失礼なことを言った元帥を待たせてもいいと思うが、しかし赤犬は一刻も早く文句を言いたいらしい。「仕方ないねェ」とひどく気だるそうな動作で青キジは立ちあがり、二人のあとを追って歩いていこうとする。


「………あ」


その時、ふとテーブルの上に置いたままのクッキーが目に入った。

折角「一緒に食べよう」と言って出してくれていたそれは、一度も手をつけられることは無く皿の上に綺麗に並んでいる。まるでななしの好意を無下にしてしまったようで、少し罪悪感が芽生えた。


「ごめんな、ななし。センゴクさんの話が終わったら戻って来るから、その時クッキー食べような」


だからなのか、口から出た言葉はとても優しい音でななしの上に降っていく。
その言葉で、わずかにしゅんとなっていたななしが顔を上げ「うん!」と元気よく笑顔で言った。








→結論。








おしまい





§あとがき§
「もういい加減海軍出しなさいよ」
と一人で思ったので、海軍サイド第一弾は三大将になりました。お粗末さまでした…。
因みにこのあと、会議は思いの外早く終わり(と言うか終わらせ)三人の姿は再び彼女の部屋にある…と言うオチでした。もはや早く家に帰りたいパパの状態です。
三人が子育てしたら、きっと三様な子供が出来るのでしょう。将来的に、このヒロインは厳しくまったりゆるーい感じな子に育ちそうですね。……赤犬の要素は、程々に、行きすぎない程度に取り入れて欲しいです。

個人的に旧三大将も好きなのですが、喋り方が微妙になってしまいました…(いつものことでした)。うぅん…広島弁っぽい感じって、どんな感じだ…。
似てなかったらすいません。しっかり勉強していきたいと思います。
あと、今回の結論は三人分なのでグラデーション風にしてみました。結論の文字が黒なのは、色の三原色を参考にしています。まあ完全な黒は出ないとのことですが、灰色だと色々かぶっちゃいそうなので…いっそ黒で。


一読、有難うございます!!
また次で、お逢いできますことを。

霞世

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