『小さい子と海賊を合わせるとどうなるのか』検証レポート(嘘)

□ハートの海賊団の場合
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▼ハートの海賊団の場合

潜水艦の形をした海賊船、ポーラータング号の船内。
三人の賑やかな声をベポが聞いたのは、昼も少し過ぎた頃…。干していた洗濯物を取り込もうと、デッキに出た時だった。


「ななしー。釣りしようぜー」

「するー!」

「ほら、お菓子とジュースもあるぞ、ななし」

「わーい!!」

「二人とも、またサボってる…」


開口一番に、ベポはそう呆れた声を上げる。その声に、視界の中で戯れている三人はこちらへと振り返った。
そうしてデッキの入口に立つオレンジのつなぎを着た白クマに、各々声をかける。


「あ、ベポだ!」

「なんだ、ベポじゃん」

「ようベポ。なにか用事か?」

「…なにか用事か、じゃないよ」


一応“用事”は、洗濯物を取り込むことなのだが…。それよりも、


「ななし連れ出してるけど…、キャプテンは知ってるの?」


目の前の誘惑に喜んでいるななしを“たぶらかす”二人組に、そう訊ねずにはいられなかった。

彼らがサボるのは…まあたまにある。今回が初めてではないから、さして驚きはしない。
だが今回は、いつもとは勝手が違っている。ただサボるだけでは怒られると、知恵を付けてななしを巻き込むことにしたらしかった。
それは、かなり有効な手だ。だが同時に非常に危険で、かなりマズい手でもある。


「ちゃんと許可を貰わなきゃ…」


何故ならななし の“責任者”は、この船の船長なのだ。お菓子を与えるのも遊び道具に許可を出すのも、すべては彼の指示があってから。
もし許可を貰っているのなら、この行動にもお咎めは無いだろうが…。


「まあ…、たまには良いじゃんか」

「船長だって許してくれるって」

「なー? ななし?」

「うんっ」

「……そんな勝手に…」


だが二人組の方は、あまり気にも留めていないようだ。
その言い分に、ベポは呆れ半分にため息を吐く。
デッキにキャプテンの姿が見えないから、もしやとは思っていたが…。やはりと言うか彼ら二人組…シャチとペンギンのこの行動は、無許可のフライングだったらしい。
恐らくキャプテンは、ななしがデッキにいることを知らないだろう。…案外部屋で本を読んでいて、気付いてないかもしれない。

しかし万が一にも捜しでもしていたら、バレた時にどんな雷が落ちるのか……。想像するだけで、ベポは全身の毛が逆立ちそうだった。


「もう…。怒られても知らないからね!」


見つかった時の大目玉を想像して、ベポはそう言い放つ。と同時に、巻き添えを食らう前にとその場を立ち去ろうとした。
これ以上長居をして、シャチとペンギンの“悪だくみ”に巻き込まれては堪らない。


「まあ待てよ、ベポ」

「もう少しゆっくりして行けって」

「…い、嫌だよ。まだ用事の途中なんだ。二人とは違って忙しいの!」

「えぇぇ。冷てェなあ」

「ななしだって、ベポにいて欲しいよな?」

「うん!」

「…またそうやって、ななしを使って…」


案の定、二人はベポを口封じがてら巻き込むことにしたようだ。すかさずななしに同意を求めて、こちらが断れないよう外堀を固めている。

元々は洗濯物を取り込みに来たので、ベポにはれっきとした立ち去る理由はあった。むしろ用事を優先するのは当然で、後ろめたいことは何も無い…はずだ。
しかしベポが立ち去った後、二人がななしに何を吹き込むか分からない。まあ小さな子供が言われたことを長く覚えているとは限らないし、きっとすぐに忘れてしまうだろう。
とは思うものの、それでも嫌われてしまうのではないか…とも考えてしまって、ベポはきっぱりと立ち去ることが出来ずにいた。


「別にいいじゃん、ちょっとくらい」


それを見越してか、息を合わせたようにシャチもごねだしている。これでは断って立ち去ろうとするベポが、なんだか悪者みたいだ。


「ベポも、つりする?」

「うーん…今はいいかな」

「そっか」


一方のななしは、大人三人の思惑や心労などに気付いた様子はまったく無く。


「あ、じゃあ、おかしたべる?」

「いや…、いいよ。おなか減ってないんだ…」

「…そう?」

「うん。ななしもあんまり食べると、晩ご飯食べられなくなっちゃうから…程々にね」

「はーい」


元気よく返事したななしは、お菓子の袋を持って「にっ」と笑った。その無邪気な笑みにつられてベポも笑いたいところだが、生憎笑ってもいられない。…まあななしの両端に座っている二人組は、にやにやと笑っているように見えるが。


「……」



…なんだか完全に、断るタイミングを無くしてしまった気がする。


「(…どうしようかな…)」

「あ!」


ベポがどうやって円滑にこの場を去れるのかを考えていると、ななしが唐突に立ち上がった。かと思えばベポの方へと小走りで駆け寄り、そのままの勢いでオレンジのつなぎに「ぎゅっ」と抱きつく。

そうしてその口から元気よく飛び出したのは、


「じゃあさ! “おひるね”しようよ!」


完全にベポの退路を断つような、悪魔のような言葉だった。


「え…! だ、ダメだよななし!」

「えぇぇ、なんでー?」

「その……仕事が残ってるから、もう行かなきゃ…」


それでも必死で、退路を確保しようとしてしまう。だが見上げてくる丸く大きな瞳が、ベポの良心を遠慮なくつついてきていた。
子供のねだるような瞳を振り切れるほど、ベポは冷たくなれない。

そんなベポの心情を素早く察して、シャチはサングラスの奥で、ペンギンは帽子の下でにやりと笑った。


「まあななしもそう言ってるんだしさ」

「少しくらい、昼寝してやったらどうだ?」

「………」


呆れと少しの腹立たしさがない交ぜになって、ベポはジト目で睨んでみる。だが二人とも、どこ吹く風だ。むしろ道連れが成功して、喜んでいる顔をしている…ように見える。
悪びれた様子のない二人と無邪気な一人に、ベポは重苦しく息を吐いた。

ああもう、どうにでもなれ。


「もう…しょうがないな」

「やったー!」

「お、さすがベポ」

「話が分かるー」

「…言っておくけど、二人の為じゃないからね!」


ペンギンとシャチの方へ、やや鋭くベポは言う。だが相変わらず二人はにやにやとしていて、怒っているのが伝わったかは微妙だ。


「じゃあ、おやすみなさい!」

「うん。おやすみ、ななし」

「あ! おれも昼寝しよ」

「じゃあおれも…」

「ちょ、ちょっと二人とも…!」


ななしがいた場所に座るや否や、両端のシャチとペンギンもなだれ込んできた。…二人とも、人のことをクッションか何かだと勘違いしてるんじゃないだろうか…。


「………もう…」


遠慮なく凭れかかってくる両端に、小さくそう言ってため息を吐いた。

一見すると、これはベポが妥協したように見える。
しかしななしが眠ったら、こっそり離れてしまえばいいと気付いたのだ。これならななしの誘いも断らずに済むし、仲間外れのような角も立たない。

それに幸い、まだ太陽は高く昇っている。
もう少しだけなら、洗濯物も干したままでも構わないはずだ。辺りを見回しても、雨雲らしいものは見当たらないし。


「…………」


そう思っていたベポが目を覚まして、最初に聞いた“音”は。



「勝手にななしを連れ出して、仕事サボって昼寝とは…。いい度胸だな、お前ら」


聞き覚えのあって聞きたくなかった、キャプテンに似た男の声だった。








→結論。

このあと、四人全員説教です。




おしまい





§あとがき§
いつか出したいなぁと思っていた旗揚げ組(船長除く)で幼女をくっつけると、こんな感じになりました。相変わらず、大変お粗末様です。
なんだか…ベポが踏んだり蹴ったりな気がしています…。な、なんと言うとばっちり!
ベポ派の皆様すみません。管理人もベポ大好きなので愛は存分にあります。お許し下さい…!
結論の文字は、三人いるので大将みたいにグラデーションにするか考えたんですが…。主にベポなので、彼のつなぎっぽいオレンジにしてみました。

個人的な勝手なイメージは、シャチとペンギンは割とつるんでアレコレ悪だくみしたり遊んだりしてて。それにベポを巻き込んだりしつつ、ローも参加したりしなかったりする。
と言う感じです。あくまでも個人のイメージなので「違います!」と言う意見はごもっともです。でも、そんな感じの四人が好きなのです。ご了承ください。
続き…になるかは不明ですが、またロー編的なものも出来たらいいなぁと思います。

因みにこのあとは、結論でもある通り説教が待っています。三人とも見事に逃げ遅れてしまいましたね。…昼寝の魔力って怖い!(そこじゃない)


一読、有難うございました!
また次で、お逢いできますことを。

霞世

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