過去拍手

□大人のスキは子供のキライ?
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「やっ! ぜったいやだ!!」


そう何度か主張する少女の言葉に、キラーは何度目かの溜め息をつく。

ここは、食堂のある一角。
かれこれ数十分ばかりここに腰かけ、キラーとななしは食事をしていた。とは言え、今現在食事をしているのは幼いななしだけなのだが。

キラーは、もう何度言ったか分からない言葉を、もう一度吐いた。


「…食べないと大きくなれない」

「いいもんべつに! おっきくならなくてもいい!」

「…ななし」

「やっ!!」

「大きくならないと困るぞ」

「いいの! それはキラーにあげたんだもん。わたしいらない!」


そう言って、ななしはぷいっとそっぽを向く。彼女の前には大きな皿が一枚あって、中には緑の細長いものが隅に塊で寄せてあった。

子供の嫌いな食べ物の代表格、“ピーマン”だ。

好き嫌いは早めに直そうと思って先程から奮闘してみるが、進展は爪の先ほども無い。
子供に「食べろ」と強要するのは悪いと聞く。しかし、かと言ってそれ以外に良い案が浮かばない。いくら“栄養不足における将来的な発育不良”を説明してみても子供に難しいことなど分かるわけはなく、やはりというか聞く耳を持ってくれなかった。


「………」


キラーはしばらく無言になる。

一瞬、『今日は諦めて引く』という案が浮かんだが、それは却下した。
仮にもし今日引いてしまったら、次に同じ状況になった時『駄々をこね続ければ引いてくれる』と思われかねない。そうなれば、恐らく永遠にななしにピーマンを食べさせるのは不可能と言えよう。

……さて……、どうしたものか…。


「…お前ら、そこで何やってやがる…」

「あ、キッドだ!!」

「……キッド…」

「随分と楽しそうじゃねェか」


わずかに不機嫌そうな声で、背後から船長が現れた。
ななしは退屈していたのか逃げ出したかったのか、現れたキッドの方へと興味が逸れ始めている。もう3秒経てば、キッドの方へと飛びついて食堂から出ていく勢いだ。
一方でキラーはキッドの方を見、一瞬の無言ののちに気付いたように口を開いた。


「……『親』だ…」

「…はあ?」

「キッド、これを食べろ」


そう言って、キラーはピーマンの入った皿をキッドに差し出す。
目の前に出された皿に視線を落としたキッドが、一瞬でサルでもわかるほど嫌な顔になった。


「冗談じゃねェぞ! なんでおれが食べなきゃならねェッ!!」

「ななしの好き嫌いを無くすには、食べて見せることが一番だ」

「………」

「お前が『美味い』と言って食べれば、コイツも興味を示して食べる」

「…だから、どうしておれが食べる必要がある。お前が食べろ、キラー!」

「おれではダメだ」


即答に近く、キラーは答える。そうして息の上がってきたキッドの方を指差して、至極平然とした声で。


「ななしの親代わりはお前だろう。キッド」

「なった覚えはねェ!!」

「……キッド…?」


珍しく声を荒げるキッドに、何事かとななしは見上げて首を傾げる。キラーも、ここまで文句を言うキッドを不思議に思っていた。普段なら鼻で笑って「くだらねェ」とか言うはずなのに、どうしてここまで強く拒む…?


「……キッド…」


…まさか……


「まさか、キッドも嫌いなのか…?」

「ばっ、馬鹿言ってんじゃねェ!!」


「違うに決まってんだろ!」と言ったキッドに、キラーは決定打を見た気がした。

…知らなかった…。
そもそもあまり野菜を食べる姿を見たことが無かったので当然と言えば当然だが。キッドが山のように盛られた野菜を食べている姿は想像しにくいが、まさか嫌いだったとは思わなかった。
「違う」とキッドは言ったが、恐らくは彼女も“同族の匂い”感じ取ったのだろう。光が溢れているのかと思うほど満面の笑みをこぼしたななしが、


「そうなんだ! キッドも“きらい”なんだね、ピーマン!」


無邪気に言って、図星を刺した。









大人のスキは、子供のキライ?








「!!!」

「(……違いない)」


キッドは一瞬だけ無言になってから、


「……おれに…」


ななしの言葉に反論する。


「おれに“嫌い”なもんはねェんだよ!!!」


そう言ったと同時、「貸せッ!!」とキラーから皿をひったくるように奪い、中の緑を一気に口へと押し流した。
顔色一つ変えずにもぐもぐと咀嚼をしているキッドに、ななしはおずおずと尋ねる。


「……だ、だいじょうぶ…?」

「あァ」

「…おいしい?」

「当然だ」

「!? うそっ、だってにがいもん…!」

「その苦いのがイイんじゃねェか。これはガキには分からねェ味だぜ」

「………」


口の中の緑を飲み下し、キッドは乱雑に皿をテーブルに置いた。そうして無言のままくるりと踵を返して、食堂から出ていく。

あとに残った二人はその後ろ姿を茫然と眺めていた。


「………」

「……」

「…わたし…」


その内、隣に座るななしがぽつりと


「…わたしもがんばる…」

「そうか…」

「……キッドだってがんばったんだもん…」

「…あァ。そうしてくれ」


そう言ってくれた小さな決意に、キラーはひとまず安堵した。

とりあえず目論見は成功……と言ったところか…。










→結論。

キッドは(本人は認めないだろうが)実は相当好き嫌いがあると見た。






おしまい





§あとがき§
そういうわけでアミダ…げふんっ、考えた結果、最初の拍手は個人企画より
『小さい子と海賊を合わせるとどうなるのか』の検証レポート(嘘):キッド海賊団の場合
になりました。
大変お粗末さまでした…。キッドの喋り方をド忘れしました。偽物だったらスイマセン。

小さい子に嫌いなものを食べさせるには、まずは大人が「美味しいよ!」と言って美味しそうに食べて見せると子供は興味を示して食べてみようかな…、と言う気になるんだそうです。
「子供には分からない味だぜ!」とか言って除け者にすると、よりそう言った気持ちが強くなるんだそう。
といった感じのテレビを見たので、そんな感じにしてみました。…キッドは野菜嫌いそう…とか勝手に思ったので手始めにピーマン嫌いにしてみましたが……いかがだったでしょうか…。
楽しんでいただけましたら幸いでございます。甘くなくてごめんなさい…。


一読、一押し、有難うございました!! 励みになります!
また次でお逢いできますことを…。

霞世

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