砂漠に咲いた花
□待惚
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その部屋に、小さな音が小刻みに響く。
トントントントントントントントントン、
テーブルの隅を指で叩くその音を出す張本人は、口を開けば
「ノロマ共め。何してやがる…」
と吐き捨てるようにそう言った。
そのセリフを聞いて、ロビンは時計に視線を送る。
「フフフッ、そうね。もう少しすれば来ると思うわ」
「…随分と人を待たせるじゃねェか」
「あら。そう思うのは貴方だけよ、Mr.0」
「あァ?」
「貴方はさっきも“同じこと”を言ったけど、それから10分も経ってないのよ?」
「……チッ」
時計を見てから舌打ちをして黙ったクロコダイルに、ロビンはまた「フフフッ」とだけ笑った。
定例会開始の指定時間まで、まだかなりある。
彼らの移動時間を考えればそれは妥当な時間だったはずなのだが、今のクロコダイルにとってはそれすら“遅い”ようだ。
「機嫌が悪いのね」
「……」
ロビンは直球にそう言ったが、クロコダイルは答えない。それは本人も分かっているのか、まだ黙ったままだった。
…そう。
クロコダイルは今、とても機嫌が悪い。
それはななしをアルバーナへ送り届けて帰って来てから、“ずっと”だ。
クロコダイルの顔が険悪なのはいつものことだが、今はいつもに増して不機嫌が上乗せされた顔つきになっていた。
眉間には皺を寄せっぱなしだし、目はいつもよりも座っている。おまけに「イライラしています」と主張ように机を叩く指は、まだ止まる気配を見せない。
こんな時に運悪く遅れて来ようものなら、オフィサーエージェントとはいえども半殺しの目に遭うのだろう。
いくら正当な言い分を並べたとしても、社長の『不機嫌』には通用しなさそうだ。
…まあ彼らもプロなら、遅れてくるなんてヘマ…しないでしょうけど。
ロビンはそう思いながら、新しく淹れた紅茶をクロコダイルの元へと運ぶ。相変わらず気を抜けば指で机を叩いているクロコダイルは、運ばれた紅茶に口をつけようとはしなかった。
そうして口を開けば、また同じセリフ。
「………遅ェ…」
「フフフッ、そうね」
小さく低く吐き捨てたクロコダイルの言葉に、ロビンは相槌を打つ。
そうしながら、
「ななし……今頃どうしているかしら…」
「……」
わざとその名を口にすると、面白いほど「ぴたっ」と、机を叩く動作が止まる。
その顕著すぎる反応に小さく笑おうとしたロビンだったが、クロコダイルが口を開く方が早かった。
「“くだらねェこと”はあとにしろ、ミス・オールサンデー」
「……そうね。失礼しました」
「…オフィサーエージェントはまだ着かェのか」
「もう直だと思うわ」
「……そうか…」
「えぇ」
その“くだらねェこと”を一番考えているのは…誰かしら…? まあ、“無意識”でしょうけど…。
と思うものの、今は何も言わずにロビンは黙って微笑んでおくことにした。
恐らく9割方、オフィサーエージェントが何かしらの“とばっちり”を受けるだろう情景を想像しながら。