狼まで、あと何秒?

□ドフラミンゴの場合
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「なァななし、トリックオアトリート!!」


後ろからそう言って抱きつけば、腕の中でななしが「ひゃっ!!」と小さな悲鳴を上げた。


「あの…、くっつかないで…ください…!」

「良いじゃねェか別に。誰が見てるわけじゃなし」


他の部屋ならいざ知らず、ここはななしの部屋だ。おまけに今部屋の中にいるのは、ななしとドフラミンゴだけ。入ってくる時には“鍵もかけた”し、この部屋には二人以外誰もいないし入っても来ない。だから過度の“スキンシップ”も、誰に咎められることもない。
だが鍵のことを知らないななしは、“万が一”を想定しているのだろう。声に、いつも以上に慌てた色が混じっていた。


「…そ、それでも…!!」

「それより、早く菓子くれよ…ななし。おれァ腹減って死にそうだぜ」


しかしそれを察しても、鍵のことをドフラミンゴは教えようとはしない。その方が燃え…面白いからだ。


「…そうは…見えません…けど…」


まだ警戒心のある声を、ななしは出す。その態度に、ななしの肩に顎を乗せていたドフラミンゴは意地悪くにたりと笑って。


「…それとも…“イタズラ”して欲しいか?」


ななしの服の中に、するりと腕をすべり込ませた。
当然、背後からの奇襲にななしが悲鳴を上げたのは言うまでもなく。


「ひゃ…ぁっ!!」

「ほら、早くしろよ。“こっち”がいいのか? ん?」

「やっ、やめて…ください…っ」


ぞわぞわと服の中を這う手の感触に、ななしは身を捩って抵抗していた。まあ男と女…しかも海賊と平凡な市民とでは、その力の差は天と地ほどある。どれだけななしが嫌がろうとも、腰を抱くドフラミンゴの拘束からは抜け出すのは、ほぼ不可能だ。


「お菓子なら…ありますから…! だから…」

「何だよななし。“こっち”じゃ不満か?」

「…だから…離れてください…っ」

「……」


耳まで真っ赤にしながら、しかし小さく肩を震わせて、ななしはそう懇願した。泣こうが喚こうがドフラミンゴは一向に構わないのだが…まあ今回は、ここを引き際としておくか。


「…ったく、しゃーねー。少しだけな」


そう言って、ドフラミンゴはすぐ傍のベッドへと腰掛ける。その重みで、スプリングが大きく軋んだ。
ようやく“スキンシップ”から解放されたななしは、まだ赤みの残る顔のまま、じとりと潤んだ瞳でドフラミンゴを睨みつける。そんな扇情的な顔をされても、余計にこっちのスイッチが入るだけだろ。…とは、また警戒されるだけなので言わないでおいた。


「……もっと離れてください」

「にしても、なんで“その格好”なんだよ。ななし」


わずかに後ろへ下がるななしに、ドフラミンゴは半強制的に話題を変えた。まだ警戒心の解けないななしだったが、自分の“格好”に視線を落としながら疑問の声を出す。


「なんでって…」

「吸血鬼なんざ、面白くもねェ。せめて“サキュバス”とか…、色々あったろ。もっと露出が高いやつ」

「サキュ…っ!! す、するわけないじゃないですか!」

「そうか? 似合うと思うぜ? なんなら今から…」

「しません!!!」


ドフラミンゴの提案を、食い気味にななしは遮る。その顔は折角赤みが引いてきたのに、また瞬間沸騰したような真っ赤な色に染まっていた。
その反応を愉しむドフラミンゴは、心の底からの感想を素直に述べる。


「残念だねェ…」

「もう…、ちょっと待ってて下さい!」


そうぴしゃりと言い切って、ななしは部屋の片隅に置いてある机に向かう。わずかに大股で歩いていくその背中を見ながら、ドフラミンゴはくつくつと嗤っていた。


「(露出が高い格好なら、問答無用で即押し倒してやったんだが…)」


今のななしはカッターシャツに黒いマントを羽織った、典型的な“吸血鬼”の格好をしていた。
男がするならともかく、ななしみたいな女がするには、なんとも色気のない、地味でお固い格好だと思う。…まあななしの性格を考えれば、お固くしたいのも解らなくはないが…。


「ホント、残念だねェ…」

「…今何か、変な事を考えてましたね…?」


一体どんな“格好”が似合うのか…。などとドフラミンゴが考えていると、戻って来たななしが再び警戒心を滲ませながら半眼で睨みつけていた。
それに、へらへらとした笑みではぐらかしておく。


「フッフッフ…。さァて、どうだろうな」

「……まったく油断も隙もない…。はいこれ、どうぞ」

「…なんだこれは」


差し出された“それ”を受け取って、ドフラミンゴは眉を跳ね上げた。手の中には、可愛らしくラッピングされている固形物がある。形からしてクッキーだろうか…。わずかに、ふわりと甘い匂いがした。


「“お菓子”ですよ。…欲しかったんでしょ? お腹減ってるって言ってたじゃないですか」

「あー…、そうだっけなァ〜」

「…言いましたよね? 死にそうなんですよね?」

「ななしが口移しで食わしてくれたら、元気出るかもなァ…」

「し、しません!!」


本日何度目かの真っ赤な顔で、ななしははっきりと断りを入れる。次いで、


「第一、そんなこと言えるなら、十分元気じゃないですか!!」

「フフフフッ…」

「まあ…分かってましたけど」


ため息を一つ吐いて、ななしはまだ赤い顔のまま口先でぼそぼそと言った。その反応を笑って眺めながら、ドフラミンゴは渡されたクッキーにかけられたリボンを外す。
試しに一つつまんで、ななしの方へ「ん」と口移しを催促してみた。だが無言で睨み返されるだけで終わったので、仕方なく諦めて、そのまま口の中へと放り込む。
口の中に、バターの甘い味が広がっていった。


「なあ、ななし」


もぐもぐとクッキーを咀嚼しながら、ドフラミンゴはななしの名を呼ぶ。


「…なんですか?」

「お前も言ってみろよ。“アレ”…」

「……」

「ほら」

「嫌です」


きっぱりと即答に近く、ななしは返事をした。その表情には、また警戒心の色が出始めている。


「何でだよ。遠慮せずに言ってみろって」


だが、今回ばかりはドフラミンゴも引く気はない。顔はへらへらとしながら、しかし企みを含ませた怪しい笑みで、ななしに“アレ”を促す。
その笑みに一層警戒心を強くしたななしは、再びじりっと後ずさった。


「…どうせまた、よからぬ事を考えているんじゃないですか? その手には乗りません」

「わからねェだろ? もしかしたら、とびっきり高級で、体中が溶けるくらい甘くて、頭が痺れるような、美味しいお菓子が出てくるかもしれねェぜ?」


とても魅力的な言葉を、ドフラミンゴは並べ立てる。その言葉に一瞬だけななしの警戒心が緩んで、ふと考えるような動作をした。


「…そう…でしょうか…」

「おいおい。おれを誰だと思ってんだ? そんなモンの一つや二つ、用意できるに決まってんだろ」

「……」

「…ほら、言えって」


ドフラミンゴのその言葉に、ななしは数秒何かを考える素振りをして。しかし数秒後には、何かを諦めたような顔つきになる。
そうしてため息交じりに小さく「……仕方ないですね…」と言ってから。


「じゃあ、…トリックオアトリート」


待望の“アレ”を、口にした。


「フッフッフッフ…!! いい子だ」


そう言って、まるでその言葉が合図だったかのようにドフラミンゴは彼女の腕を掴んで。

有無を言わさずベッドに引きずり込んだ。



狼まで、あと−90秒。



おしまい
Title:確かに恋だった 様



§あとがき§

ハッピーハロウィーン!! その2!!
というわけで、サイトの立ち上げから初となります『ハロウィン企画』第2回目となります!
引き出しの乏しい管理人が“アミダクジ”に頼り、
ヒロインの“性格”や“仮装の格好”、“現代パロか否か”、さらには“掲載の順番”までもを、すべてアミダ様の言うとおりにさせて頂いている単独企画です。

二番手になりました【ドフラミンゴ】は、『大人しい』『吸血鬼』少女となりました。非現パロなので、大海賊世界のドフラミンゴになっています。

割とドフラミンゴはモーションをかけまくるイメージがあるので、ハロウィンを掛け合わせたらこんな感じになりました。今回の企画で一番ヒロイン押し倒しそうなイメージがある…(個人の感想です)。彼にとってはお菓子=自分、みたいな…。そんな感じですかね。次があればちゃんとお菓子をくれるドフラミンゴ作ってみたいです。
少しでも色気のあるドフラミンゴに…なれたら良いなぁと思います。…もっと勉強します。
因みに管理人は、クッキーは某おばさんのチョコチップが好きです(誰得でもない情報)。


一読、有難うございました。
また次で、お逢いできますことを。

霞世

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