過去拍手

□童話パロディ『赤ずきん』
1ページ/1ページ


むかしむかしある所に、赤ずきんと呼ばれる女の子がいました。すらりと背の高い、細身で黒髪がよく似合う女の子です。

ある日赤ずきんは、お母さんに病気のおばあさんの家にお見舞いに行くよう頼まれました。


「いいかい赤ずきん!! アンタは今から見舞いに行っとくれ!! 見舞い、みま…み…“み”だね、みっ!!」

「えぇ。分かったわ」

「それと、手ぶらで行くんじゃないよ。こいつを持って行きな!!」

「ワイン…いえ、ブドウジュースとケーキね」

「そうさね。アイツは酒が飲めねェからな!」

「フフフッ。そうね」

「ほら、分かったらとっとと行きな!! 道はまっすぐだから迷うこたァないだろうが、のんびりしてたら日が暮れちまうよ!!」

「そうね。じゃあ、行ってくるわ」


そう言って、赤ずきんはおばあさんの家に向かいました。

お母さんに言われた通り、赤ずきんは道をまっすぐ進んでいきます。
すると草むらから、一匹のオオカミが現れました。とても大きくて毛皮のコートを着た、なんともお洒落なオオカミです。

しかし突然オオカミが現れても、赤ずきんはちっとも驚きません。むしろにこにこと笑顔を浮かべて、丁寧に挨拶します。


「あら、こんにちは。オオカミさん」

「………」


しかし、オオカミは無言のままでじろりと赤ずきんの方を睨みます。

なにやら少し不機嫌そうな顔をして眉をしかめ、オオカミは咥えていた葉巻の煙を吐き出しました。
子供が泣いてしまいそうなほどに低いその声は、赤ずきんへと向けられます。


「……何故てめェが“赤ずきん”をやってやがる、ニコ・ロビン」

「…その名は呼ばない約束だったはずでしょう? “オオカミさん”?」

「………」

「………」


そう言い合って、赤ずきんとオオカミは無言で対峙します。

しかしその内に「そうね」と言葉を続けたのは、赤ずきんの方でした。肩をすくめて「やれやれ」と言いたげな動作をしながら、


「“女の子”と言うには、流石に大き過ぎると思うわ。それにこの格好も、なかなか斬新ね」

「…その大きな赤ずきんが、何処へ行こうとしてやがる」

「病気のななしおばあさんの所よ」

「…何処だ。それは」

「この道をまっすぐ行った先……大きな木の傍だから、すぐに分かるはずだわ」

「………」


オオカミは言われた道の先をしばらく見つめてから、再び赤ずきんの方へと向き直ります。
そうしてもう一度煙を吐き出して、淡々と言いました。


「……“赤ずきん”」

「何かしら」

「向こうを見てみろ。花が咲いている」


そうオオカミが言った方向には、綺麗な色とりどりの花が咲いていました。赤ずきんもその方向を見て「えぇ」と言います。


「綺麗ね」

「あの花を『ゆっくり摘んで』、病気のばあさんとやらに持って行け」

「…そこは“命令”ではなく、“提案”ではなかったかしら」

「……おれの言うことに文句があるのか」

「いいえ。…そうね、そうさせてもらいましょう?」


赤ずきんは溜め息を一つ吐いて、オオカミの言っていた花畑へと向かいました。そうして腰を落とすと、綺麗な花を摘み始めます。
それを見ていたオオカミは、くるりと踵を返して赤ずきんの言っていたおばあさんの家の方向へと歩きはじめました。足の長いオオカミはゆっくりと道を歩いていき、あっという間に森の奥へと消えます。

その光景を赤ずきんはしっかりと見ていましたが、“知らぬフリ”をして黙っていました。

だって、


「(…そういったお話ですものね)」


一つ、また一つと花を摘みながら、赤ずきんはひっそりとそう思うのでした。





一方、道の先には赤ずきんの言っていた大きな木があって、その傍には一軒の家がありました。
中には、病気のおばあさん…ななしがベッドに横になって寝ています。…いえ、正確には布団の中で小さく丸まっていました。
窓にはしっかりとカギをかけて、扉もカギをいくつも付けています。暖炉には鍋を置いて水を張り、湯を沸かしていました。

どこからも入ってこれないように、防犯対策はばっちりです。


「……絶対間違ってる…」


ぶつぶつと、さっきから同じようなことをななしは言っていました。
ななしの病気と言うのは、決して精神的なものではありません。
数日前に風邪をこじらせて、ななしはそれからずっと寝たきりになっていたのです。今日は赤ずきんがお見舞いに来ると言うので、それをとても楽しみにしていました。

布団の中で、ななしは赤ずきんの到着を今か今かと待ち望んでいます。


「いくら私が本当に風邪引いたからって、これはあんまりすぎる…!! 早く来てくれないかなぁ、ロビン…“アレ”より先に………ッ!!?」


呟いた言葉が、途中で切れました。
急に、耳に「ざぁっ」と何かが崩れる音が聞こえたのです。一瞬で青ざめたおばあさんがベッドから飛び起きると、扉の形をした森が見えました。冷や汗を流しながら視線を下に向けると、床には砂の山が小さく盛られています。

そうしてその砂を踏んで、オオカミが平然と何食わぬ顔で入ってきました。
オオカミは砂を操る能力があって、水分を奪って全て砂にしてしまいます。だから木の扉や頑丈なカギなんてものは、彼の前では無意味でした。

部屋に土足で入ってきたオオカミの表情は、ひどく愉しそうで。


「これはこれは、こんにちはななしおばあさん。赤ずきんから聞いたが、病気だそうだなァ」

「…え…えぇ、まあ…」


丁寧な物腰のオオカミに、ななしの青白い顔はもっと青く白くなっていきました。
オオカミが一歩、また一歩と距離を詰めていく度に、ななしも一歩、また一歩と後ずさりします。そうして遂にななしの背は壁につき、オオカミの片足がベッドに乗りました。

更に近づいてくるオオカミに、ななしは両手でストップをかけます。


「ちょ、ちょっと待って…!!」

「どうした」

「“汗かけば病気は治る”とか、そんなアリガチなこと言わないでよね! そもそもこれは…」

「…何妙なこと言ってやがる」

「童話なんだから変な……って、え…?」


なにやら誤解していたらしいななしは、オオカミの一言で動きを止めました。


「これは“童話”だろう。そんなくだらねェことは言わねェ」

「え…あ……そう、なの…。ならいいんだけど……」


思ったことと違うオオカミの反応に、ななしはほっと胸を撫で下ろし……かけました。

安心しようとした刹那、オオカミの顔がさっきより増して愉快そうに歪んだのを見てしまったのです。
不敵につり上げられた口から洩れるのは、葉巻の煙と決定的な『言葉』でした。


「それに、ちゃんと“書いて”あるじゃねェか」


『やってきたオオカミに、おばあさんは“食べられて”しまいました』となァ。










童話パロディ
『赤ずきん』








「……っ!!?」


一瞬言われた意味が分からなくて、ななしは言葉を失いました。
その間にもオオカミはゆったりとした動作で、ベッドにもう片足を乗せます。気づいた時には、オオカミとななしの距離は目と鼻の先まで縮まっていました。


「…で、でもそれは“童話的な”表現であって、そっちの言うような変な意味じゃ…っ」

「関係ねェ。捉え方の違いだ」

「じゃあ、もっと平和的に捉え…」

「無理だな」


また「にやり」と、オオカミは笑います。左手の鉤爪を器用に使ってななしの顎を持ち上げれば、こちらを見て真っ赤になったななしと目が合いました。
緊張からかななしの身が「ぎゅっ」と固くなりましたが、そんなことはオオカミの知ったことではありません。


「この役になった時点で、“こうなること”は決まっていたはずだろう?」


本来ならななしは赤ずきんになるはずで、そうなればオオカミはあの花畑で見つけた時に真っ先に“食べて”しまうつもりでした。
しかし、それも今となってはどうでもいいことです。

誰が何であろうと、結果に変わりはありません。


「私はおばあさんで、貴方はオオカミなの!! “こんな”こと、年齢的におかしいでしょ!!?」

「関係ねェなァ」

「ちょ、ちょっと待って! もうすぐロビンが来…」

「おれは構わねェ」

「私は構う!!」

「なら、いっそ見せながらヤるか?」

「そ…っ、そんなこと誰が了承するか誰がぁっ!!!」


ななしは思いっきり喚いて抵抗しますが、背中は壁で前にはオオカミがいます。病気のななしの体力では、逃げることは不可能でした。
…まあ健全な状態でも逃げ切れるとは限りませんが、それはこの際黙っておきます。

オオカミはくつくつと笑ってから


「嫌なら、さっさと終わらせることだな」


そう言って、有無を言わせないままななしにかじりつきました。






お花を適度に摘み終えた赤ずきんは、ななしおばあさんの家にやってきました。しかしどうしてだか赤ずきんは家へと近づこうとせず、少し離れた所で微笑ましく笑っています。
やはりというか、顛末は赤ずきんの予想どおりでした。

そうして近くを通りかかった猟師に、穏やかな声で言います。


「今回は貴方の仕事は無さそうよ、Mr.1」

「…そうらしい」

「あまり向こうへ行かない方がいいわ。今“取り込み中”みたいだから」

「……」

「フフフッ。仕事をとってしまったお詫びに、ケーキとジュースがあるの。うちで一休みしていくと良いわ、猟師さん」

「……あァ」


赤ずきんはおばあさんのお見舞いに持ってきたはずのケーキとジュースを持って、寡黙な猟師を連れてそのまま家へと帰りました。


赤ずきんが家へと帰ってしまったので、このお話はこれでおしまいです。

おばあさんの家で、一体“何が”あったのか……。


それは、この世界の秘密。





おしまい





§あとがき§
というわけで、童話パロが出来ました…!
まず初めに、このお話の配役を考えて下さったyako様に深く御礼申し上げます! 有難うございます!! まさかのおばあさん役という意外性に驚きましたが、やってみるとこっちの方が楽しそうですね!(私はありがちに赤ずきんがヒロインで考えてたので)

前回拍手が季節っぽかったので今回も季節っぽく……と思ったのですが、パロディにしてみました。…まあアリガチネタだったのですが、ご了承くださいませ。
そして拍手なのに、微妙に変な路線を走っております。…す、すべてはオオカミさんが悪いんですあの葉巻のオオカミさんが(責任転嫁)。

…因みに、配役はこんな感じでした。
ロビンが「赤ずきん」(すらりと背の高い黒髪美人。大人赤ずきん)
クロコダイルが「オオカミ」(葉巻とコートなお洒落オオカミ。獣耳は付けたら私笑っちゃう/砂にされたいか)
ヒロインが「おばあさん」(意外性抜群。狼とおばあさんの行く先はもう一つしか…)
ミス・メリークリスマスが「おかあさん」(最初はポーラで考えてみましたが、喋り方が…)
Mr.1が「猟師」(寡黙。そしてきっとロビンの次に空気の読める人)

……明らかにお母さんと赤ずきんとおばあさんの役が違っておりますが、その辺はもうこの際気にしない方向で。喋り方も……笑って流していただけると…(すいません)。


無駄に笑えない感じになってしまってすみません…。
勢いに任せて書いたので、粗だらけだったらすいません。でも、楽しんでいただけると幸いです!
鰐連載の方とはまったく関係ないので、ちょっとの息抜き程度にご覧ください(息抜きに…なるのかな…)。


一押し、一読、有難うございました!!
また次でお逢いできますことを…。

霞世

次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ


©フォレストページ