過去拍手

□イメージチェンジ
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仕事から帰ってきたクロコダイルは、机の前に置かれたソファに「どかっ」と座った。
そうして懐から葉巻を取り出して咥え、火をつけて燻らせていると


「あ、おかえり!」


どこからともなくそう声がして、間もなく奥から一人の女が現れる。
この女は、どこか遠くの辺鄙な村から連れてきた女…ななしだ。…まあ“連れてきた”と言っても、別に拉致してきたわけでも買ってきたわけでもない。向こうが、勝手に“ついてきた”のだ。
しかも人が海賊から奪ってきた宝に、わざわざもぐりこむと言う徹底ぶりで。


「結構早かったんだね。正直、もっとかかると思ってた」

「…このおれが、海賊ごときに手間取るとでも思ってんのか?」

「まっさかー。そうは言ってないよ。まあ距離的に、時間がかかるかなって思っただけ」

「………」


丸いお盆を持ってきたななしは、用意していたらしい紅茶と茶菓子をそれぞれテーブルの上に並べていく。
そのななしの横顔と一連の動作を黙って見ていたクロコダイルだったが、


「お前…」


ふと、何かに気付いたようにゆっくりと口を開いた。


「……ん?」

「“髪”を…切ったのか…?」


確か、今日出掛ける前に見た女の髪の長さは、肩より少し下だったはず。しかし今の彼女の髪は、クロコダイルが記憶している長さじゃない。首のラインより上の、いわゆる『ショート』の長さだ。
クロコダイルに指摘されたななしは、特に動揺した風はなく「ああ、これ?」と自分の髪を触りながら


「うん。切ったよ」


さらりと一言、そう言った。


「いやほら、ここって暑いでしょ? かなり前から、切りたいなーって思ってたんだよねー」

「………」

「でも、切って正解。やっぱり暑い所ではショートカットの方が良い! って、つくづく思ったね。うんうん」

「………」

「あ。でも首が焼けちゃうから、そこが難点かなー」

「……」

「って、あれ…?」


一人で頷いていた女は、黙りこくるクロコダイルに気付いて首を傾げる。かと思えば「あれ? あれあれ?」と何やらにやにやしながら、クロコダイルの隣に腰掛けた。
そうしてまだ黙っているクロコダイルを、わざとらしく見上げてくる。


「もしかして、私が髪切っちゃったの悲しい? それとも、もう手櫛が出来ないから寂しい?」

「………」


にやにやと薄気味悪く笑う女の問いかけに、クロコダイルは無言を返した。そうして小さく「アホか」と言ってから、吸い込んだ葉巻の煙をわざと女に向けて吐き出す。
真正面からの攻撃を受けた女は、当然激しくむせていた。…くだらないことを口走るからそんな目に合うのだと、身を持って知ったことだろう。


「わっ、ちょっ、…げほげほげほっ」

「なんでおれが、テメェの髪に一喜一憂しなきゃならねェ」

「…えぇーっ。そこはやっぱり、“お前の髪が触れなくて寂しいぞ”くらいは言ってくれなきゃ」

「黙れ」


女の願望を一蹴したクロコダイルだったが、一瞬考える素振りをしてから「…そうだな」と言った。


「おれは別にテメェの髪が短くなったのを、まったく微塵も悲しいとも寂しいとも思ってねェ」

「…そんな何回も言わなくても…」

「だが“便利になった”とは、少し思うかもな」

「いいんじゃ……ん? 便利…?」

「あァ」


盛大にむせて涙目になっていた女の問いにクロコダイルは短く答えて、女の腕を持つ。そのことを女が疑問に思う前に思いきり引いて、自分の所へと引き寄せた。
バランスを崩して「わっ」と言った女は、次の瞬間にはクロコダイルの胸元へと盛大に倒れ込む。倒れた時に「ぶふっ」と何やら妙な空気音が聞こえたが、この際無視することにした。


「こうすると、髪が顔にかからずに済む」

「……っ!!?」


言いながら、クロコダイルは自分よりもはるかに小さな塊を優しく抱える。

思えば、以前はこう言ったことをした時に女の髪が散って面倒だった。いちいち髪を避けていた手間が、この長さだと随分省ける。
つまり、こういった行為に及ぶ時は短い方が便利、と言うことだ。

それを考えると、彼女の髪が短くなったのも案外悪くないのかもしれない。


「ちょっ、いきなり何をする…!! はーなーせーっ!!」


一方で、理解が数秒遅れた女は間を置いてから腕の中で暴れ始める。
だがクロコダイルも、そんな女の要求をあっさり蹴った。


「断る」

「んな…っ!!!」

「おれは仕事で疲れてんだ。少しは労わってやろうという気は起きねェか?」

「う……あ…、それは…」

「…多少は起きてるらしいな。ならこのまま、おれを労われ」

「………」


まあ特に目立って疲れてはいないのだが、クロコダイルはそんな言葉をすぐそばにある女の耳へと囁く。すると女は耳を真っ赤にして、そして何も言わなくなった。

かと思えば小さく、


「仕方ない。…5分だけ」


と、随分としおらしい返事をする。

その返答に口の端をつり上げたクロコダイルは、咥えていた葉巻をテーブル上の灰皿へと置いた。


「いい返事だ」








イメージチェンジ






数時間後。
ロビンが帰宅すると、ソファに黒い塊があった。


「(…あら、珍しい)」


ソファの上では、何故か丸まってクロコダイルが眠っている。少し遠くまで海賊を狩りに行っていたのとそれが立て続けに何件か起きたのが重なって、よほど疲れていたのだろうか。
それにしても、妙な体勢で眠っているのは珍しかった。

…と思いながら歩み寄ると、奇妙な体勢の答えが見える。


「(まあ、髪を切ったのね。可愛いわ)」


そう思うロビンの視線の先…クロコダイルの首元に、女が一人眠っていた。髪が相当短くなっている彼女を抱きかかえているために、クロコダイルが丸くなっている珍しい光景になったらしい。…どう言った経緯でこうなったのか、是非見てみたかったが。

頼まれた仕事を終えた報告にと立ち寄ったのだが、ボスは生憎と寝ている。起きる気はないだろうし、起きたとしても相当機嫌が悪くなっているはずだ。…なにせ、大事な彼女との素敵な時間を邪魔されるのだから。


「(…報告は、あとでも良さそうね)」


下手に起こして不機嫌のとばっちりを食らうくらいならと、ロビンは静かに部屋を後にする。

その数分後に、先に目を覚ました女が、クロコダイルの腕から決死の脱出劇を試みる面白い光景が見られることになるのだが…。

残念なことに気を使ってしまったロビンは、また見逃すことになってしまった。



おしまい




§後書§
ここまで来るのに、どれだけの時間がかかったのでしょうか…。
いろいろな言い訳はにっきでするとして(するのかよ)、一言。

皆々様、大変お久しぶりです。

そしてすみません。こんな作品になってしまいましたorz
個人的にまだ以前のペースを思い出せない状態で、リハビリと言う意味を込めて書きました。上手く物語的に成り立っているのかさえ、今は不安な状態です。
夏らしく髪を切ってみると、こうなりました。鰐はきっと髪が短ろうが長かろうが、ヒロインが好きだから関係ない! と言ってくれるに違いありません(願望)。
とりあえずヒロインに「髪切ったの悲しい? 手櫛出来なくて寂しい?」と聞いてもらいたくて書き始めたような気がします。そしてロビンは相変わらずの傍観者で、ほっとしました。
粗の目立つ話になっているかもしれませんが、楽しんでいただけると幸いです。

一読も、一押しも、有難うございます。
久しぶりの拍手がリハビリで物凄く申し訳ないです…。

また次でお逢いできますことを、心より祈っています。


霞世

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