夢物語

□神無月
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「のう、我が主様よ」

忍は一枚のチラシを無造作に床に落とした。

「………」
「無視するでないぞ。言うまでもなく、解っておろうな?」
「このチラシがどうかしたか?」
「見て分からんのか?期間限定のドーナツが100円なのじゃ!」
「そうらしいな」
「これは行くしかなかろう。いいや、絶対に食べに行くもんねー!」
「分かったよ。近々買いに行くことになるだろうと思っていたし、俺もCMを見て一度は食べておこうと思っていたからな」
「そうと決まれば早速出発じゃー!」

そして準備を済ませ、ミスタードーナツの店に到着。

「売り切れ…じゃと?」

忍は中腰でガラスに両手をつき、ある商品が置かれていたであろうトレーを凝視していた。

「はい。申し訳ありません。その商品は人気でして…
次にその商品が並ぶのはハロウィン当日になっております。
今発売されているものの中では、南瓜や栗を使った商品もオススメですよ」

商品が売り切れていたことだけではなく店員が営業スマイルで語りかけてきたことによって、余計に忍は眼光を鋭くして眉根を寄せた。

「残念だったな、忍」
「仕方ないの。あの猫型ドーナツはハロウィーン当日の楽しみにしておくか」
「猫型っていうと某漫画のロボットみたいだな。って、ハロウィン当日もドーナツを食べに来るのか?」
「当然じゃろう。儂はあの白骨化した猫型ドーナツを食べてみたかったのに、売り切れていたのじゃから」
「分かったよ。忍が楽しみにしていたことを俺も知っているからな」
「約束じゃぞ」
「ああ、約束だ。で、今日はどのドーナツにするんだ?」
「そうじゃのう…」

数分後。
二人は席につき、期間限定のドーナツを半分ずつ分け合って食べていた。

「ぱないの!ぱないの!」

忍はドーナツを口いっぱいに含んで堪能していた。
暦はというと、ドーナツを咀嚼しながら忍を見ていた。
今日も平和だな、と考えながら。



何気ない日常
偶然の積み重ねと自ら選んで紡いだ最善の今
そこには確かに幸せがあった

〜完〜

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