復活短編集
□過去拍手 初代雲夢
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「………またここにいた」
あたしが屋上に上がると、やっぱり彼はお昼寝の最中だった。
「アラウディ」
この国の諜報部のトップでありながら、イタリアマフィア"ボンゴレ"ファミリーの雲の守護者に選ばれてしまった恋人を覗き込む。
「……………」
熟睡中……か。
木々のさざめきにすら目を覚ます彼が熟睡する姿は珍しい。
すとん、と彼の横に腰を下ろす。
「報告書は後でいっか」
街で彼とすれ違い、そのままこの屋敷に連行されてしまった。
そして、いつの間にやら彼の恋人兼秘書だ。
………恋人なのか秘書なのかは、自分でもよく分からないのだけれど。
我が儘で、誰とも組まず、唯我独尊な彼の気持ちなんてすぐ側にいるあたしにだって理解不能だ。
ゆっくりと手を伸ばして彼の髪に触れてみる。
「でも、知ろうとする方が恐かったりして……ね」
彼が気に入らない人間を側に置かない事くらい、分かっている。
でもやっぱり怖いのだ。
大して取り柄もないあたしが、彼の隣にいるのは不釣り合いだ。
彼がその気になれば、貴族だろうが王族だろうが娶れるのに。
いつか、あたしが不要になる時がやって来る。
その時、あたしは静かに身を引けるのだろうか。
「………無理だろうなぁ…」
連れ去られた当初はそりゃあ嫌で仕方なかったし、アラウディの事も嫌いだった。
でも、時折見せる優しさに触れて、だんだん心が近づいていって………。
気が付けば、こんなに大切な存在になっていた。
サラリとアラウディの柔らかい髪が、あたしの指の間を零れる。
「また要らない心配でもしてるの?」
「……何のこと?」
突然起き上がった彼に驚きながらも、天の邪鬼なあたしはついと眼を逸らしてしまう。
「まぁ、君が何を思おうが関係ないけどね」
アラウディは立ち上がりながら、その言葉とは裏腹に柔らかい声音であたしに告げた。
「さ、行くよ」
あたしも慌てて立ち上がる。
「君は僕のものなんだからね。仕事でもプライベートでも、傍に立つのは君だけで十分だよ」
柔らかく微笑む彼。
この表情にいつも自惚れさせられてしまうのだ。
「君はそのまま自惚れてたらいいよ」
「ちょ!心読まないで!」
考えている事を言い当てられて慌てるあたしに背中を向けて、歩き始める。
「………もう」
あたしも続いて、その背中を追った。
いつまでも続けばいい。
あたし達のこの関係が……………。