MENU
□鈴蘭 tragedy
2ページ/7ページ
「マサせんぱーい」
知恵の輪に気を取られていると、背後から聞き覚えのある声がした。
数週間前に出逢った声だ。
俺は一旦知恵の輪を止め、振り向いた。
思った通りの顔と笑みがそこにはあって、
俺も釣られたように笑った。
「おー天海。バイトか?」
「そっす。ここのファミレスでバイトしてるんすよ。
今度皆さんで遊びに来てくださいね。」
本当に、よく笑う。
子供みてーに悪戯っぽく、好奇心に満ちた笑顔。
いつもいつも笑顔を絶やさないコイツは、
やっぱりどう見たって航さんそのものだ。
ただちょっと、
華奢で、
可愛いくて(航さんはどっちかって言うと“綺麗”という感じだった)、
声が高い。
「マサ先輩、知恵の輪やってましたよね?
ちょっと貸して下さいよ」
面白そうに手を出した。
「いいっすよね?」と隣の初対面であろう俺の連れに人懐っこい笑顔を向けた。
「あ、ああ」とソイツはぎこちなく返事をして、
少しだけ複雑そうな表情をした。
少しだけソイツの顔が赤くなっていたのは、俺の見間違いではないだろう。
そして、
天海の数メートル後ろから、角材を持ったハゲが俺らの方にすげー形相で向かってくるのも、
見間違いではなかった。