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□鈴蘭 tragedy
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「マサせんぱーい」


知恵の輪に気を取られていると、背後から聞き覚えのある声がした。

数週間前に出逢った声だ。



俺は一旦知恵の輪を止め、振り向いた。

思った通りの顔と笑みがそこにはあって、
俺も釣られたように笑った。



「おー天海。バイトか?」

「そっす。ここのファミレスでバイトしてるんすよ。

今度皆さんで遊びに来てくださいね。」


本当に、よく笑う。

子供みてーに悪戯っぽく、好奇心に満ちた笑顔。

いつもいつも笑顔を絶やさないコイツは、
やっぱりどう見たって航さんそのものだ。

ただちょっと、
華奢で、
可愛いくて(航さんはどっちかって言うと“綺麗”という感じだった)、
声が高い。




「マサ先輩、知恵の輪やってましたよね?
ちょっと貸して下さいよ」


面白そうに手を出した。
「いいっすよね?」と隣の初対面であろう俺の連れに人懐っこい笑顔を向けた。

「あ、ああ」とソイツはぎこちなく返事をして、
少しだけ複雑そうな表情をした。



少しだけソイツの顔が赤くなっていたのは、俺の見間違いではないだろう。






そして、

天海の数メートル後ろから、角材を持ったハゲが俺らの方にすげー形相で向かってくるのも、



見間違いではなかった。
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