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□想いはつのるばかり
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いつもは騒がしい船内も、深夜2時をすぎれば寝静まっていた。真っ暗な廊下は目の悪い私にはキツくて、まったく見えない。
(水飲みたいのに、)
感覚にまかせて壁をつたって廊下を歩く。暗い場所は苦手ではないが、本当に何も見えないと怖いものだ。
早く暗闇になれろ、と願いながら歩いていると、ドンッと何かにぶつかった。
「うぅ、痛・・・!なに、」
ぺたぺたと、ぶつかった物を確かめるように触るが、壁ではないらしい。
こんなとこに何かあっただろうか。記憶を辿るが、わからない。
ずっと触り続けてると、パシッと触っていた手を捕まれた。
「誘ってんのか?」
その声は聞いたことのあるもので、直ぐに船長のものだとわかった。
「船長!こんなとこで何してるんです?」
船長の顔すら見えないから、目線は合ってないと思うけど気にせずに話をすすめる。
「甲板に読みかけの本を忘れて取りに行った帰りだ。お前は何してんだ」
「私は、水を飲みに行こうと思って廊下に出たのはいいんですけど、まったく前が見えなくて」
「そう言えば、目悪かったな」
「そうなんですよ。眼鏡買わないと」
へへ、じゃあおやすみなさい。
また再び歩き出すと、ふいに捕まれた手。冷たい船長の手が、私の手を握ってる。そう手の感触でわかった。
「俺が連れてってやる」
私が理解する前に、船長は私の手を引いて歩き始めた。
え、え?えっと、つまり、キッチンまで連れていってくれるってこと?
「そんな、大丈夫ですよ船長」
「人の好意は素直に受けとれ」
ぎゅ、と強く握られた手。
ドキ、私の心臓が跳ねた。
私の頬はきっと赤く染まってるだろう。暗闇に慣れてる船長にバレませんようにと願いながら、私も手を握り返した。
想いはつのるばかり
09.10.26