short

□想いはつのるばかり
1ページ/1ページ


いつもは騒がしい船内も、深夜2時をすぎれば寝静まっていた。真っ暗な廊下は目の悪い私にはキツくて、まったく見えない。


(水飲みたいのに、)


感覚にまかせて壁をつたって廊下を歩く。暗い場所は苦手ではないが、本当に何も見えないと怖いものだ。


早く暗闇になれろ、と願いながら歩いていると、ドンッと何かにぶつかった。



「うぅ、痛・・・!なに、」


ぺたぺたと、ぶつかった物を確かめるように触るが、壁ではないらしい。
こんなとこに何かあっただろうか。記憶を辿るが、わからない。

ずっと触り続けてると、パシッと触っていた手を捕まれた。



「誘ってんのか?」



その声は聞いたことのあるもので、直ぐに船長のものだとわかった。



「船長!こんなとこで何してるんです?」



船長の顔すら見えないから、目線は合ってないと思うけど気にせずに話をすすめる。



「甲板に読みかけの本を忘れて取りに行った帰りだ。お前は何してんだ」

「私は、水を飲みに行こうと思って廊下に出たのはいいんですけど、まったく前が見えなくて」

「そう言えば、目悪かったな」

「そうなんですよ。眼鏡買わないと」



へへ、じゃあおやすみなさい。
また再び歩き出すと、ふいに捕まれた手。冷たい船長の手が、私の手を握ってる。そう手の感触でわかった。



「俺が連れてってやる」



私が理解する前に、船長は私の手を引いて歩き始めた。

え、え?えっと、つまり、キッチンまで連れていってくれるってこと?



「そんな、大丈夫ですよ船長」

「人の好意は素直に受けとれ」



ぎゅ、と強く握られた手。

ドキ、私の心臓が跳ねた。
私の頬はきっと赤く染まってるだろう。暗闇に慣れてる船長にバレませんようにと願いながら、私も手を握り返した。




想いはつのるばかり

09.10.26








[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ