short
□ピーターパン症候群
1ページ/1ページ
このまま成長したくない。
大人になんかなりたくない、ずっとこのままがいい。子供のままでいたい。
本気でそう思った。
だからご飯を食べるのを止めた。
大きくなんか、なりたくなかった。
もう成長しない。一生この姿のまま。
ガチャ、ドアが開いた音がした。
わたしは別に気にせずに、ベッドに寝転がったままでいると、ギシッ、とベッドに重りがかかった。
「親父が心配してるぞ」
「ずっと子供のままがいい」
「死ぬつもりか?」
「・・・」
「飯くらい食えよ」
「・・・大きくなりたくない」
「もう成長期はすぎてんだ。でかくなったりしねーよ」
「大人のエースに、子供のわたしの気持ちなんて、わからないよ」
「いい加減にしろ。ワガママ言うな、食え」
「ほら、そうやって大人はすぐに命令するんだ」
大人なんか嫌いだよ。
力で子供を押さえつけるし、嘘つくし、命令するし、殴るし。
だから大人なんか、大嫌い。
そう言って睨んだらエースは小さくため息をついた。
「俺たちが、お前を押さえ付けたことあったか?嘘ついたり、殴ったりしたか?命令だって、お前が心配で言ってんだ」
「じゃあ、なんでサッチさんが死んだのに、泣いてあげなかったの?涙も出せない大人なんかに、わたしはなりたくない!」
上半身を起こし、エースに向き合ってそう言えば、エースはぴくりと眉を反応させた。
それから悲しそうな顔をするものだから、胸がぐっと押さえつけられたような感覚になった。
「・・・俺は、船を出る」
「・・・え?」
「ティーチを追いかけ、殺してくる。ティーチがどこに向かったかわからねぇから、時間はかかるけどな・・・。必ず、サッチの敵は打つ」
悲しそうな顔から一変し、キリッと真剣な顔になった。
ああ、エースだって悲しいんだね。悔しいんだね。
「とうぶん帰ってこれねぇ。だから、お前が心配なんだ」
ぎゅっ、と抱き締められ、わたしもゆっくりエースの背中に腕を回す。
体も心も大きく、大人だと思っていたエースの背中は思いの外、小さく思えた。
「・・・エース、泣いていいよ」
「・・・」
「今日は、わたしが大人になるよ。だから、エースが子供になっていいよ」
ポンポンと、小さく背中を叩いてあげれば肩に冷たい滴が落ちた。
それはたったの一滴で、代わりにと強く、それは窒息死してしまうんじゃないかってくらいの力で抱き締められ、わたしもそれに答えるように、強く、でも子を抱き締めるときのように優しく力を加えた。
ピーターパン症候群
(なるなら、あなたのような優しい大人になりたい)
09.11.30