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□世界に沈め
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船長と喧嘩をした。
理由なんか、言い合いをしてるうちに忘れてしまうくらいささいなこと。
それでも、ひどくイラだってしまった船長と私。
私は勢いにまかせて船を出てしまった。
適当に町を歩いてた。知らない町。
私の国とは、雰囲気も匂いも服装も、全てが違う町。
私の生まれ育った町は、田舎で緑ばかり。
綺麗な町で、海賊なんか滅多に来ない、平和な町。
そんな時、町に一隻の海賊船がきて、私は船長に出会った。
船長とは、何日か話してるうちに普通に話せる程度までいき、その数日後に"船に乗れ"と船長に言われたけど、私は断った。
船なんて乗ったこと無いし、海賊になるのも嫌だ、と。そう断った。
でも、船長は私を無理矢理とは言いすぎだが、船に乗せた。
遠くなっていく町を見て、私は"まあ、いいか"と諦めた。
意外にも寂しさなんて無くて、船に慣れてきたときには、船に乗って良かったと思えた。
家族とも友達とも会えなくなっても少しの寂しさだけだったのに。
なのに、何で今はこんなにも、町に帰りたいって思うのだろう。
泣きそうだ。胸が苦しい。視界が歪む。
消えたい、どこかに。どこか、寂しくないところに。
「ベポに、言われた」
聞きなれた声。なぜか落ち着く、声。
私の町に海賊船が来たときから、毎日側で聞いていた声。
その声が、背後から聞こえた。
「俺は、ズルいって」
ベポは、そう言った。
お前を、無理矢理船に乗せて、喧嘩したら知らない町に追い出すんだから、俺はズルいって、ベポは泣きそうな顔をして言ってた。
「俺も、そう思った」
どこか悲しそうな声で船長は話した。
こんな声、初めて聞く。
私は、急いで振り返る。
そこには眉毛をハの字に歪めて私を見ている船長がいた。
「・・・私は、船にのって後悔したことはありません」
視界が、もっと歪んだ。
歪む視界の中、船長が薄く笑った。
「お前の生まれ育った場所に、戻ることは出来ない」
けど、お前の帰る場所は俺たちがいる船だ。
ゆっくりと歩いて、私の手を握る船長。
船長の手は温かくて、私を船に乗せた時と一緒だと思った。
「・・・船に、帰ってもいいですか」
「当たり前だろ」
撫でられた頭が、暖かかった。
体温がなかったように、頭から足まで、温もりが伝わるのがよく分かる。
冷たい涙までもが、温かかった。
世界に沈め
09.08.15