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□マイペース彼女
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外科では急患も多く、休憩なんかほとんどない。
あるとしたら、昼のちょっとした飯時間くらいだ。
そんな休憩時間をいつも通りソファーに座りながらコーヒーを飲んでると、プライベートの方の携帯が鳴った。電話の着信音だ。
携帯を開いて表示されている字を見ると、彼女の名前。
「どうした」
電話かけてくるなんて、珍しいな。
そう思いながら、あっちの言葉を待った。
『ごめん、聞きたいことがあって。仕事中だった?』
「いや、大丈夫だ。聞きたいことってなんだ?」
『あのさ、お昼ご飯作ってたら包丁落としちゃって』
「…は?」
『そのときに右腕切っちゃって。結構、血が出ててさ。車は頑張れば運転できるほどなんだけど、あたし運転苦手じゃん?そんな奴が片手運転するのは危険かなって…。で救急車呼ぶにも、どれくらいの傷の程度なら救急車呼んでいいのか分からなくて。どれくらいの傷なら、呼んでいいのかな?』
こいつは昔から何か抜けてると思ってたが、まさかこんなに抜けてるとは…。
しかもいつも通りのマイペースな喋りが、おれのイライラを募らせた。
「馬鹿か!直ぐに救急車向かわせるから、止血して心臓より高く上げてジッとしてろ」
勢いに任せて、電話を切った。
こいつは鈍感でマイペースだからこれくらしないと、おれが怒ってることを理解しない。そこがまたムカつく。
「おい。救急車1台、おれん家に回せ。腕切って出血の患者が1名だ」
用件を言うと、おれは直ぐさま白衣を手にして部屋を出た。
たく、あいつのせいで休憩が潰れた。まだコーヒーしか口にしてねぇぞ。
「まあ、可愛い患者だしな。大目に見てやるよ」
マイペース彼女
100523