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□どろどろに、なれ
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「9月なのに暑いな」
「んー」
屋上で風に吹かれながら、溶けかけのアイスを口にする。甘いチョコレートが口のまわりを占領した。
ああ、それにしても本当に9月かと疑いたいくらいに暑く、未だ制服は半袖だ。
でも学校のクーラーは効き過ぎてて寒い…ああ、ちょうどいい温度って難しいなー。
「今年の夏は例年より暑いが、冬は例年より寒くなるんだってよ」
「んー、なんかもう地球って爆発しそうだよね」
「きっとするだろーな」
ぽたぽた、チョコレートのアイスが溶けていく。
掌もベトベト、口もベトベト。地球も、この暑さが続いたら溶けて、変な形になって、冬がきたら、変な形のまま固まるのかな。
「ねえ、」
「あぁ」
「別れよっか」
チャイムが鳴った。
帰りのSTが終わって、誰もいなかったグラウンドは、あっと言う間にたくさんの生徒でいっぱいになる。
そして、がやがやと騒がしくなるなか、エースはただだまっていた。
「じゃあ、帰る」
アイスを食べ終わって、あたしは立ち上がった。
もうここに来ることも無い。嫌なことは、思い出したくないから。
「本気で、好きだったんだけどな」
「…」
あたしはゆっくり目を閉じた。
もう全部、溶ければいいのに。
エースも、あたしも、エースがここで、違う女とキスした事実も。
全部、全部、溶けて無くなればいいのに。
アイスみたいに、どろどろになって、何か分からないくらい溶ければいいのに。
「アイスが、うらやましいな…」
どろどろに、なれ
100926