short
□違う、愛してた。
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"違う"何度頭の中で否定しただろうか。
目の前に眠る女を見て、吐き気がした。
この島で一番高い女だ。
セックスもキスも、男の誘い方も、全てが魅了するはずだ。だが違う。
何も感じない。気持ち悪い。違う、何かが違う。
何故だ。一夜限りの関係など、いつものことなのに。
ぐるぐると回る、何か小さな虫が頭の中を侵食しているような感覚が襲った。
そして脳内を埋め尽くしていくのは、深く暗い海へと沈んだ船員の女だった。
『キャプテーン!』
気付いたらベットに潜り込んでたり、人のパーカーの臭いをかいだり、風呂を覗こうとしたり…思い出すことは、変なことばかりだ。
それなのに、冷めきってたはずの心は温かくなる。
あいつが、おれの脳内を占領していく。どうしてだ。
あいつは鬱陶しいだけの存在だったはずなのに。あいつが死んでから、おれの心は冷たい。寒くて仕方がない。死んだのは、ただの船員のお前のくせに。なあ、なあ、なあ…今、ものすごくお前に会いてぇよ。
目から何かが落ちた。
無色なはずなのに…それは何故か、悲しい色をしていた。
違う、愛してた。
(こんな格好悪いおれでも、お前はとびっきりの笑顔で愛の言葉を叫ぶんだろうな)
10.10.24
素敵企画様提出。
ありがとうございました!