三國物語
□緋色の愛を紡ぐなら
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きっとこの眼では、もう孟徳の役になど立てぬ。
なんどそう思ったことだろう。
なんど自害未遂をしただろう。
そうしてそれは、いつも決まって孟徳に邪魔される。
もう死なせてくれ!
なんどそう泣き叫び、暴れて孟徳を困らせたのか…?
回数などとうに忘れて、視界の狭さが、今までの物語が夢ではないことを知らせる。
自室にある鏡を何回ぶち壊したか…、
そしてそのたびに硝子の破片で切ったその手を
孟徳に手当てして貰ったか。
わからない…自分が
わからない…左目が
鏡を見る度に嫌気がさす。
廊下を曲がって、兵たちの言葉に絶望する。
オレの左目を
いつからかオレは"盲夏侯"と呼ばれていることに気づいた。
要は淵と区別したいから。
そんなことは頭では理解している。
理解しているが、オレの何かが音を立てて崩れていく。
知らぬ間に残された右目から涙がこぼれる。
誰にも見せたくないオレ
泣いているオレなど、見せられるわけがない。
オレは走って自室へと向かった。
寝室の寝台に座る。
座る先にはオレの大嫌いな鏡…