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  風がふいた。

  それは冷たくてそれでもどこか暖

  かさのある春の風。涙を誘う酷く

  優しい風だった。別れは突然、い

  や。これは必然であったのかもし

  れない。分かってはいたけれど只

  認めたくなかっただけで。



  「お別れじゃ」



  彼は淡々とその言葉を口にした。

  まるですべてを悟っていたかのよ

  うに。そんな現実要らないのに、

  信じたくなんてないのに、生憎私

  の頭はそこまで馬鹿になってはく

  られなかった。




  嫌、だ




  声が出ない。今の私はきっと酷い

  顔をしている。ただ立ち尽くすそ

  の姿は滑稽でしかないのだろう。

  行かないで、手を離さないで、そ

  う言いたいのに目の前の彼は酷く

  綺麗に微笑んでいるから、私は何

  も言うことなんて出来なかった。



  彼らが負けた。そのことを知った

  時、その結果に悲しさを抱いたと

  同時に悟ってしまった。終わりだ

  、と。すべてが終わり無くなるの

  だ、と。そもそも出会えたことが

  あまりにも有り得ない出来事で、

  あってはならない事だったのだろ

  う。いきなり姿を現した眩しい銀

  色の彼に心臓が壊れそうなくらい

  衝撃を受けたことを今でも覚えて

  いる。それは色濃く、鮮明に。


  私達が生きる世界は異なっていて

  その事実はどうしようもなかった

  はずなのに、私は彼と出会った。

  それは奇跡としか言えないような

  出来事でかなりの時間がたった今

  でも夢なのかと疑う程だった。



  「この世界もまあ、楽しかった」


  そう言って目の前で笑う彼はすご

  く意地悪だった。それはイメージ

  通りというか知っていた通りの彼

  で、今だってそう。私に別れを受

  け入れさせようと目を逸らそうと

  はしてはくれない。でもその反面

  彼は優しかった。すごく。涙が出

  るくらいに。



  漫画の中から出てきた彼はとても

  綺麗で、私は彼のその銀色の髪が

  好きだった。現実に出会うまで知

  らなかったことは彼のたまに見せ

  る顔が酷く優しいということ。辛

  いことがあると頭を撫でてくれる

  彼の手が暖かいということ。出会

  った時は見上げることしか出来な

  かった顔も今では少し上を見やる

  だけで見ることができる。時は経

  ったのだ。彼とは生きる場所が違

  うその現実が深く胸に突き刺さっ

  て心がズキズキと悲鳴をあげた。



  「に、おう」


  「ん。」


  「すき」


  「…ん。俺も」



  これはきっと恋愛感情なんかじゃ

  ないんだ。ただ私にとって仁王は

  誰よりも大切で必要な人だったん

  だよ。本当の私を見てそれを全て

  無償で受け止めてくれた。それが

  どんなことよりも嬉しくて、幸せ

  でした。



  「好 きだ、よ」

  「…ん、わかっとる」



  そうやって貴方はまた優しく微笑

  む。少し困ったように。その顔が

  、声が、全てが本当に大好きだっ

  たんだよ。



  「また、会える?」


  「…さぁ、どーじゃろな?」














  柔らかな風が吹く。

  あまりの心地好さに目を閉じた。

  ふと、名前を呼ばれた気してゆっ

  くりと目を開ければ彼の残像、ま

  ばゆい程の銀色がきらきらと舞っ

  て消えていった。







  (また、会おうな)


















  彼は意地悪な人でした。すごく。

  だけど優しい私のかけがえのない

  大切なたったひとりの人でした。








  ねぇ仁王

  この声が届いていますか?

  貴方とこうして過ごした時間、私

  はとても幸せでした。寝れない夜

  に抱きしめて頭を撫でてくれたこ

  と、辛くて仕方がない時に隣にい

  て支えてくれたこと、くだらない

  ことで笑いあったこと、全部大切

  な思い出です。



  たくさん、たくさんありがとう




  さよならラバー  end






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