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  みんな消えてしまえばいいのに



  そう目の前の女はつぶやいた。

  肌にあたる風は少し冷たくて肌

  寒さをほのかに感じた。

  カシャンと静かに音が響き俺は

  そちらに目を向ける。夕日のオ

  レンジが彼女を照らし、なんと

  も言えない感情が体の中で渦を

  巻いた。力なくフェンスを掴む

  彼女の右手は微かに震えていて

  思わず俺も拳を強く握る。こん

  な行為なんの意味も持たないの

  に。



  ねぇ仁王、



  俺を呼ぶその声でさえどうしよ

  うもない切なさが溢れてるよう

  で、あまりのやるせなさに拳を

  さらに強く握った。爪が肌を刺

  す鋭い痛みが全身に駆け巡る。



  、なんじゃ



  情けない程にかすれた声は彼女

  の鼓膜をゆらし脳まで届いたの

  だろうか?彼女は笑った。それ

  は酷く歪んだ今にも崩れそうな

  笑みで、さっきの痛みよりも遥

  に鋭い痛みが胸の奥を刺した。



  どうして人は求めるんだろうね



  涙が地面に染みをつくる

  嗚呼、綺麗だ。そして残酷だ。

  彼女はあまりにも綺麗すぎた。

  この汚れきった世界で彼女は傷

  つきすぎたのだ。求めて求めら

  れて、傷つけて傷つけられて、

  どんなに頑張っても終わりなど

  見えなくてさまよい続ける。

  なぁ、俺に何ができる?おまえ

  の為に何かしてやりたいと思っ

  ても何をしたら良いのかわから

  ん。そばにいたいってそう願っ

  てしまう俺は愚かなんか?

  俺がおまえを汚してしまいそう

  で怖い反面、染めてしまいたい

  とも思うんよ。この感情はいっ

  たいなんなんじゃ?ああ、なん

  だか泣きそうだ。






神様、
汚れた世界に嘆く僕らは
愚かなのでしょうか?



それでも今だけは泣かせてよ

こんな歪んだ世界、要らん





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