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  少し前にテレビでやっていた恋愛

  ドラマ。お金持ちの女の子と小さ

  な工場で働く男の子の切ない物語

  り。巷ではそんなラブストーリー

  実際には中々ない、なんて醒めた

  意見も多くて私の周りでは好きだ

  と言っていたのは主役の男の子を

  演じていた人のファンの子くらい

  だった。

  

  でも私はすごく好きだった。べた

  だという恋愛も流れる音楽もきれ

  いな港町の街並みも何回見ても飽

  きなくて、ただただ憧れた。あん

  な風に生きたかったなあと。ヒー

  ローである男の子と出会ったヒロ

  インの子が羨ましかった。だって

  女に生まれたからにはやっぱり誰

  かに強く想われてみたいじゃない

  。そうでしょ?


  そう隣に座っている銀色の頭をし

  た彼に言ってみるとひとつ笑いを

  こぼした。なんじゃ、もう希望な

  んてなさそうな言い方じゃのう。

  なんて。


  だってそうなのよ、仁王。その通

  り。私の未来はまっ暗闇で、誰か

  に縋りたくて必要として欲しくて

  存在意義が欲しくって、いつだっ

  て助けてって心の中で叫びながら

  もがいていたのに。気付いて欲し

  かった。ただそれだけだった。


  口を開かない私を見て彼の口元が

  少しだけ歪んだ気がする。ほくろ

  が色っぽいなあなんてぼんやり見

  つめてみた。そういえば私の瞳は

  何を見る時もきっと色を映してい

  ないんだろうな。なんだか景色が

  全部一緒に見える。もしそうだと

  したらドラマで見たあの港町でも

  一緒なのかな。それはちょっと嫌

  だな。かなり、ショックかも。


  「さみしいよなあ」


  発せられた急な声に少し驚いた。

  彼は言う。苦しい、と。誰かに理

  解されたいといつも思っていたん

  だ。憎らしいくらいに青く澄んだ

  空に目を向けた後に私を見た。そ

  の鋭い、だけど悲しいような苦し

  いような目。その瞳に映る私もま

  た同じような瞳をしていた。


  おまえもだろう?見透かしたよう

  な瞳に悲しみが残ってるみたいで

  おもわず抱きしめたい衝動に駆ら

  れた。抱きしめて、抱きしめられ

  たい。よくわかんない感情。


  「さみしかった、のかな」


  喉の奥から溢れ出た声は思ったよ

  りずっと頼りなくて目の奥がツン

  と痛くなった。


  「ぜんぶ受け止めちゃるよ」


  街の工場では働いてないがのう。

  彼はそう言って笑う。それはすご

  く魅力的な言葉で私の鼓膜を震わ

  せた。とりあえず思い切り抱きつ

  いてみた仁王の体は温かくて、す

  っと香ったミントが目に染みた。





  0827 end

  ジュリエットは甘いのがお好き








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