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  空が青い。どこまでも高く、果てしな

  く私達を見下ろしている。この空の下

  で3年間、どれだけの時間を私達は共

  に過ごしたのだろう。家族より長い時

  間だと言われてもきっと疑うことなく

  素直に納得しちゃうなあ、と頭の中で

  漠然と考えた。地球温暖化か何かの影

  響なのか例年より早く咲いた桜がとて

  もきれいだ。陽射しもぽかぽかあった

  かくて、少し涙腺がゆるむ。


  「なにやってんだよぃ」


  聞き慣れた声に後ろを向けば眩しい赤

  色の髪がさらさら風に揺れていた。桜

  の淡いピンクと相まってすごくきれい

  。調子に乗るから言ってはあげないけ

  ど。


  「思い出にひたってんの」


  目の前には思い出の詰まったテニスコ

  ートがある。入るのは少しだけ躊躇わ

  れて見ていることしか出来ない自分が

  さみしくて仕方ない。


  「…早いよなあ、本当」


  早い。早すぎるよ。まだまだ足りない

  の。もっと皆でこのコート走り回って

  、真田の怒鳴り声がどこまでも響いて

  いて、柳が開眼したとか言ってブン太

  と赤也と仁王と騒いだりもしてさ。そ

  の後で柳に静かに怒られるんだ。そん

  な様子をジャッカルも柳生も呆れなが

  ら優しく見ててくれて、幸村が幸せそ

  うに微笑んでいる。そんなくだらなく

  も愛しい愛しい毎日。そんな日常が恋

  しくて、永遠に続いてほしくて、なん

  だか胸がいっぱいなんだ。


  「おい、泣くんじゃなか」

  「…だ、って!」


  さみしくてさみしくて堪らないの。だ

  って皆が優しすぎるから。あったかす

  ぎるから。


  「失いたくない、の」


  なんて浅はかな願いなんだろう。進

  学先はエスカレーター制だから皆一

  緒。だというのに、分からないけど

  何かが変わってしまいそうで不安なん

  だ。怖い。ずっと皆と一緒にいたい。

  そんなの私の我が儘でしかなくて、ど

  んなに願っても時間が止まることなん

  てないのに。いつも一緒にいる空気が

  当たり前で、あったかすぎて、愛しす

  ぎて、離れたくない。


  「我が儘、かな?」


  皆で笑いあった日々を、皆で競いあっ

  た日々を、皆で悔しがった日々を、皆

  で同じ未来を見据えた日々を、忘れな

  いでいてくれますか?その中に私は少

  しだけでも一緒に映っていてくれてい

  るのかな?




  キィー…


  金具の錆びた鈍い音が響き目を向けれ

  ば大好きな人達が一瞬だけ躊躇って、

  でも穏やかな顔をして一歩一歩確実に

  に足を進め想い出が詰まったコートへ

  と入っていく。その光景が酷く神聖な

  ものに思えて、何も言うことが出来な

  い。気付けば王者立海大、最強と言わ

  れた元レギュラー陣8人全員がコート

  の中に入り、私を見ていた。


  ふいに何かが込み上げてくる。この8

  人に私はどれだけ助けられて、支られ

  てきたのだろう。目を逸らせない。ピ

  ンと張りつめた、でも穏やかな空気。

  一人一人の顔を見つめて脳裏に浮かぶ

  のは皆の優しい笑顔。




  マネージャーも悪くなかった




  「俺、会えてよかったと思うよ」


  皆に。そう穏やかに微笑む部長は私達

  の誇り。この人がいたからきっとここ

  まで来ることができた。いつだって皆

  のことを考えていてくれたね。


  フェンスごしに見る彼等は満足そうな

  笑みを零してきらきらと輝いていた。

  それが私には眩しくて眩しくて、静か

  に目を閉じる。その先に浮かんでくる

  のは共に笑いあった平凡で平淡で、で

  も何より輝いていた幸せすぎる毎日。

  なんて口にすれば良いのかな、この想

  い。簡単な言葉じゃ表せないよ。


  「俺達はこれからも同じ未来を見据

  えるだろう」

  「無論そのつもりだがな」


  知ってたかな。その凜とした姿を見て

  いつも安心していたんだよ。いつでも

  も己を信じ、前に突き進むその姿が私

  に勇気をくれたんだよ。


  「きっとさ、なんだかんだ言ったって

  ずっと一緒に居るんだと思うんだよな

  、俺達」

  「だな。それが日常で当たり前なんだ

  ろうな。きっと、これからも」


  明るくて屈託のない笑顔がこの部の活

  力だったんだと、私は思うよ。きっと

  皆が思ってる事なんだ。口にはしない

  だけで。その姿にたくさんの笑顔をも

  らいました。優しい貴方はいつもそう

  でした。影を労り思い、いつだって支

  えてくれていたね。たくさんの迷惑を

  迷惑とも思わず傍に居てくれてありが

  とう。


  「それでもいつかは道を違える日が来

  るのだと思います」

  「いつまでも一緒に過ごせる訳でもな

  か」

  「…でもそれは別れじゃない。いつで

  も連絡を取り合う、そんな距離なので

  しょうね」


  いつでも優しくあったかく護っていて

  くれる貴方にどれだけ支えられたのか

  な?貴方のあたたかさはこの部に、そ

  してパートナーに必要不可欠なものだ

  ったんだよ。 私が闇に迷った時、道

  を照らしてくれたのは貴方でした。器

  用で、でもその不器用な優しさに私は

  何度も救われたんだよ。




  風に揺られて桜が散る。だけど皆の想

  いは終わらない。眩しい眩しい、どん

  なに手を伸ばしても届かない。そんな

  皆が大好きでした。




  「俺達は忘れないよ。先輩達と笑って

  過ごした毎日を。…だから変わらない

  。ずっと。俺も、先輩達も、もちろん

  アンタのことも」


  はっとして皆を見た。そこには今まで

  見てきた中で1番あったかい空気を纏

  った彼等がいた。何度も考え迷った。

  私で良いのか、私で良かったのか。彼

  等の役にたてたのか。私は、私は彼等

  の仲間でいられたのだろうか。考えれ

  ばきりがなくて、不安だった。彼等が

  眩しすぎたから。


  「君がいたから、ここまでこれたんだ

  よ」


  不安になればなる程眩しさは増して距

  離が開いてばかりだった


  「俺達みんな感謝してるんだぜぃ?」


  いつだって支えられてたのは私の方で

  嬉しい反面不安が募ってたの



  「気付いていないとでも思っていたの

  か?」


  「だてに何年も一緒にいたわけではな
 
  い」


  それでも皆と一緒にいたくて、力にな

  りたくて、必死に頑張っていたんだ


  「私達は貴女に支えられてきたのです

  から」


  少しでいい。皆もマネージャーである

  私を望んでいてくれてたらいいな、な

  んて淡い想いを抱きながら


  「おまえがいてくれて良かった」


  「おまえがいたから、俺達は輝いてい

  られたんよ。眩しかったのは俺達だけ

  じゃなか。」


  私も皆と一緒に輝きたいと何度思った

  ことか、皆の頑張りの支えになりたい

  と何度願ったことか


  「だって、俺達仲間っスから!」


  その一言がこんなに嬉しいなんて初め

  て知ったよ




  堪え切れなかった涙が流れおちる。皆

  と出会えて良かった。私達は支え支え

  られ共に輝き共に成長した。それがな

  ににも変えられない私の誇りなんだと

  今、心から思った。




  「ありがとう、皆」




  これからもそう。泣いたら笑いながら

  頭撫でてくれる皆が居て、たくさん一

  緒に笑って、たまには言い争って喧嘩

  もしたりして、共に過ごしていくんだ

  。これは私の願いで、皆の願いで、未

  来だ。一生変わらない。これからも当

  たり前の毎日に愛しさを抱いて私達は

  進んでいく。だって、仲間だから。






  0827 end

  愛した世界にさよならを、

  そしてまた愛しい日々を皆と過ごす






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