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  愛とはなんだ?私は今でもその答

  えを見つけられずにいる。そんな

  私に愛してると言う目の前の彼は

  苦しそうに目を細めた。きれいな

  ブラウンの髪の毛に冷たく澄んだ

  ブルーの瞳すべてが綺麗だった。





  その日は雨だった。季節に似合わ

  ぬ寒さの中しとしとと降り続ける

  雨はコンクリートの色を黒へと変
 
  え、道ゆく人の頭上を鮮やかに彩
 
  る。吹きつける冷たさが少しだけ

  心地よかった。


  教室の窓から見える世界は天候と

  時間のせいかぼんやりと暗い。時

  計を見れば短い針が5という中途

  半端な数字を指していた。部活に

  入っていない人はとっくに帰って

  るだろうし雨の中この時間に残っ

  ているのは体育館で練習をしてい

  るバレー部やバスケ部くらいでは

  ないかと思う。


  そんなどうでも良いようなことで

  脳内を満たそうとしても浮かんで

  くるのは静かに伏せられた綺麗な

  瞳だけで、息が詰まるとはきっと

  こういうことなのだろう。


  1年前の大会で出会った彼の第一

  印象はと言えば綺麗な人だった。

  彼の周りを見ればキラキラと輝き

  ただただ綺麗だったのだ。そして

  哀しかった。何故だかそんな彼が

  寂しそうに見えたから。目と目が

  あった瞬間それを逸らすことなん

  て私にはできなかった 。




  似てる、ね

  …あぁ




  初めて交わした言葉はなんとも不

  可思議なもので夕日に染まるコー

  トのフェンス越しに二人で薄く笑

  ったのを今でもはっきりと覚えて

  いる。苦しそうな、泣きそうな、

  でも嬉しそうな困った笑顔。きっ

  と忘れることはないだろう。


  初めてだった。何も言わなくても

  解り合えた様な感覚。目を見ただ

  けで思ったんだ。この人と似てい

  るって。傷の舐めあいと言われれ

  ばそれでおしまい。これは寂しさ

  を紛らわす為の依存なのかもしれ

  ない。それでもこの人となら一緒

  に居られるとそう思ったんだ。




  「まだ居たのかい?」




  この人に出会うまでは。


  振り向いた先にいたのは儚い姿、

  優しい笑顔に強い瞳。ドアに片手

  を付いて立つ姿は、コートで百人

  以上の部員をまとめている凜とし

  た様子とは違いなんとも哀しそう

  に見えた。




  「、何を見ていたの?」




  寂し気に揺れた瞳に胸が痛んだ。

  彼を苦しませているのは他でもな

  い自分だ。彼はとても優しく強い

  人だった。しかし、それも残酷な

  運命によって壊される。


  聞いたこともない様な病気が彼を

  襲ったのだ。絶望を見た彼は酷く

  嘆いた。誰にもその姿を見せずに

  独りで暗闇と闘っていたのに私は

  何も出来なかった。マネージャー

  という位置にいながら部長の支え

  にもなれない自分に嫌気がさした

  私は彼に聞いた。




  「…幸村は、何を望むの?」

  「君が隣に居てくれる事、かな」




  好きなんだ、と穏やかに笑った彼

  が答えたのは思いもしなかった事

  で私はただただその柔らかい笑顔

  を、氷の様に冷たい暗い瞳を見つ

  めることしかできなかった。




  それからと言うもの私は彼の隣に

  ずっといた。辛い時も哀しい時も

  入院中も退院した後も。彼は私が

  他の男と話しているととても不安

  がった。


  だから会えなかったんだ。

  あの綺麗な瞳の彼に。


  それでもふとした時に思い出す。

  夕日に染まるコートを見ている時

  曇り空が雨を降らせた時、綺麗な

  青い空を見上げている時。とにか

  く彼が脳内を支配していくのだ。

  勘の鋭い彼はその事に気がつく。

  私の中を誰が支配しているのか、

  自分とは違う他の誰かがいるのだ

  と気づいて哀しむ。私は何もして

  あげられなくて、また苦しめる。


  今だってそう。私は目の前の彼と

  は違う他の人のことを考えて求め

  ているんだ。


  「なに、も見てないよ…?」


  ただ季節外れな雨だなぁって。と

  続けて言えば彼はまた寂しそうに

  笑った。そうだね、なんて思って

  もないことを口にして。


  ズキリ、胸が痛む。


  ごめんね。言える訳のない言葉。

  酷い罪悪感に押し潰されそうにな

  った。私はずるいね。今すぐ逃げ

  出したい衝動に駆られて目線を外

  へと外した。




  瞬間、時が止まった




  どうしているの?そんな疑問が浮

  かんだけれどそれよりも先に足が

  動いた。早く彼の所へ、ただそれ

  だけだった。


  「、待って…!」


  愛とか恋とかそんなの解らない。

  ただ、今彼に会いたかった。どう

  しても会わなきゃいけないと思っ

  た。例え目の前の彼への裏切りで

  あっても。


  「行くな…っ」


  頼むから、そう言って目を伏せる

  彼にかつてないくらい胸が軋む。

  でも、それでも雨の中傘もささず

  立ち尽くしていた彼をほっとくこ

  となんて出来なかった。


  「、ごめん…ね」


  また戻るからなんて言えないよ。

  でも今だけは、今の1秒だけは、

  彼に会わせてほしい。




  幸村は私にとって大切な人だ。

  長年、一緒に頑張ってきた最高の

  仲間。そして彼が笑うのなら私は

  何でもしたい確かにそう思った。

  それは、愛?…それなら彼は?今

  も校門の所で独り雨に濡れている

  彼は、私にとって何?今はまだ解

  らない。




  全身が震える感覚がした。それで

  も必死に足を動かして、1秒でも

  早く彼の所まで。靴を履き替える

  ことすらせず雨に打たれ走った。




  今は解らなくても。いつか解りた

  いと思う。だから今は傷の舐め合

  いでも依存でも良い。確かに今、

  お互い必要としあっている。例え

  これが一瞬の気の迷いでも。




  久しぶりに会った彼は相変わらず

  綺麗で哀しくてそして痛かった。




 未完成の愛のカタチ


  愛とは一体なんなのか、
  神様、教えてください


  明日羅さまへ






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