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  ◎ギャグ




  テーブルの上には日本茶みかん煎餅

  といった冬の定番品がずらりと並ん

  でいる。この季節お世話になりっぱ

  なしのこの温かな机布団は日本最大

  の発明なのではないかと特番を見な

  がら頭の中で盛大に称賛してみた。

  ついさっきまで向かい合わせに座っ

  ていたぼさぼさの髪の女、一応の姉

  貴は今や思い切りいびきをかいて眠

  っている。


  「太るぞ、ばーか。」


  小さく呟いた声にも関わらず、うる

  せえバカ也と寝ぼけた声を返してき

  たのにはさすがにびびった。怖え。





  ピンポーンピンポーン



  

  いきなりの訪問者の知らせに面倒臭

  さが先に立ち無視を決め込む。…と

  そこまでは良かったもののガチャっ

  という音と同時に、開いてるぜよー

  と言う場違いな声が聞こえてきた。


  …まさか


  おっ煎餅の匂いするぜぃ!…聞こえ

  るこの声を俺は知っている。なんて

  馬鹿な先輩を持ったのだろうと頭を

  抱えたくなった瞬間だ。



  「よっ!赤也!」



  ああ、なんなんだこの常識のない人

  達は。俺だってお世辞にも常識人だ

  とは言えないが、この人達は別格な

  気がする。勝手に家に上がり込む奴

  なんて普通居ねぇだろ。



  「…なんなんすか」

  「何じゃつれないのう」

  「おっ!やっぱ煎餅じゃん!」



  天才的ぃ?と次の瞬間、ぼりぼり煎

  餅をかじり始めた丸い先輩に失望に

  も似た諦めを感じたのは俺だけの中

  に閉じ込めておこうと思う(…あ?

  字がちげえって?気のせいだってー

  の!)


  噛み合わなさすぎる会話を仕方なく

  続けようとした時だった。それはも

  う当然のごとくその人は部屋のドア

  を開けて姿を現した。



  「まったく。丸井くん、仁王くん。

  靴は揃えて置かないと駄目じゃない

  ですか」

  「おー柳生遅かったのう」



  あけましておめでとうございます。

  なんて今更そんな紳士的に挨拶され

  ても勝手に人の家上がりこんできた

  って行動だけで既に紳士じゃねぇか

  ら。頼むから気付いて下さいよ。


  「…で、なんなんすか」

  「そうじゃった」


  ほれ、と差し出されたのは一枚のC

  Dだった。なにやら屋上らしき所に

  4人の男が立っている。なんだこれ

  、変なかっこ。



  「…これが?」

  「今流行っとるんじゃと」

  「はぁ…」

  「おまえ気付かねぇ?」

  「…なにがっスか」



  相変わらずぼりぼり煎餅をかじりな

  がら丸井先輩は鼻で笑うようにこっ

  ちを見た。そんな態度に若干苛立ち

  つつも言葉の意味が解らずに続きを

  待ってみる。


  「俺達に似てねぇ?」

  「……はぁ?」


  そう言われて改めて見てみると確か

  に似ているかもしれない。この赤い

  髪はどこと無く丸井先輩に似てる気

  がするし、奥の銀髪は変なポーズを

  しているものの仁王先輩に似てる。

  …けど、



  「これ、柳生先輩…?」



  指を指して恐る恐る先輩の顔を見て

  みると吹き出す声が聞こえたと同時

  に仁王先輩と丸井先輩の背中が震え

  出した。そして俺は悟った。地雷を

  踏んだのだと。



  「…これが私、ですか?」



  悪魔の笑みとは正にこのことを言う

  のではないかと思う。いつもの優し

  い顔は頬が引き攣り元々鋭い瞳は更

  に釣り上がっている。怖い、怖い怖

  い!そんな事を知ってか知らずか丸

  井先輩と仁王先輩は爆笑しながら苦

  しそうに「むらさき…!」とうわ言の

  様に繰り返してる。丸井先輩に至っ

  ては床を叩きまくってのたうちまわ

  っていた。


  「紫も似合っとるぜよ」


  柳生先輩の肩に手を置き慰めるよう

  にそう言った仁王先輩だが顔はおも

  いっきりにやけている。それはもう

  最上級の笑みだ悪意だなんて一目瞭

  然。ああ、柳生先輩の顔がどんどん

  歪んでいく。


  「、ほらでもイメチェンっていうか

  気の迷いっていうか…なぁ!?」

  「そうじゃな、きっと何かがあった

  んじゃよな、柳生」

  「気にすんなよ、柳生!よっしゃ、

  カラオケ!カラオケ行こうぜぃ」


  やっと平和な家に戻るのだとほっと

  息を吐いた。何が悲しくて正月早々

  、先輩達に振り回されなければいけ

  なかったのだろうか。


  「ほら行くぜ!赤也!」

  「お、俺もっスか!?」

  「当たり前じゃろ」

  「行きますよね」



  この爽やかな笑顔が拒否権などない

  と言ってる。ああ、どうしてこんな

  非常識な人達なんだろう。でもって

  何で俺はこの人達といると楽しくて

  嬉しくて仕方ないのだろう。




  「赤也追いてくぜよー」




  まぁきっとこの非常識さが日常であ

  って、そんな日常を楽しんでいる自

  分が居るのもまた事実。


  そんな日常もあと2ヶ月程で終わる

  。正直言ってすっげー寂しい。そん

  でもって泣きそう。でもさ、今が楽

  しい。だからまだそれで良いんじゃ

  ねぇの?少なくても俺はそう思う。



  「待って下さいよー!」



  常勝と呼ばれるこーとなんて口ずさ

  んでる丸井先輩にまずはタックルで

  もしてやーろう!



 




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