ネバーランドを信じた僕らは

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    vol.1




    この港街はいつ来ても落ち着く。




    果てなんてないと思えた暑さもす

    っかり息をひそめ気付けば全てが

    秋色に染まっていた。木々の鮮や

    かな赤や黄、空の淡いブルー。澄

    んだ空気が心地よくて、そんな秋

    の穏やかに吹く風が私は好きだっ

    た。やわらかなその風は何故かあ

    たたかい気持ちにさせたから。少

    し寂しい季節の中のあたたかさは

    確かに私の支えになっていた。



    だいぶ歩いたかもしれない。少し

    足が疲れて近くにあったベンチに

    腰をかけた。目の前に広がる海は

    どこまでも青い。ふと足下に鳥が

    一羽やってきた。人懐っこいのか

    餌をねだってるのかずっと右足に

    寄り添っている。ふわふわとした

    白い羽がかわいくておもわず微笑

    んだ。



    「何しとるんじゃ?」



    一瞬世界がまっ暗になった気がす

    る。ジャリ、という足音を聞いて

    飛んでいってしまった鳥を見上げ

    ると視界にさらさらと靡く銀色を

    見つけた。不思議だ。何処かで見

    た気がする。



    「…なんじゃ、髪になんか付いと

    るか?」

    「…あ、れ?」



    思い出した。この人は…。いやで

    もそんなはずがない。だってそん

    なことって。頭の中でぐるぐると

    回ってる。きらきらと輝く銀色。

    釣り上がった琥珀色の瞳。全てが

    似ていた。そんな混乱の最中原因

    である彼は何かを探るように私の

    方をじっと見つめていた。



    「…なんで、いるの?」


    非現実的な空間の中で無意識に放

    った言葉は震えているような小さ

    な声で胸に何かが込み上げてくる

    。苦しいような痛いようなぎゅっ

    とした違和感。そんな私をおかし

    そうに、それでいてどこか切なそ

    うに見つめてくる彼から目をはな

    せない。



    「おまえに会いたかったから」



    遠くに見える大きな観覧車。かす

    かに聞こえるはしゃいだ子供の声

    。向こうに見える手を繋いだカッ

    プル。全てがリアルすぎて私はた

    だ泣きたくなった。




    ネバーランドを信じた僕らは

           vol.1 0904








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