ネバーランドを信じた僕らは

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   良い店を見つけた。住宅街の中で木

   目の扉が目を惹く輸入菓子店。店先

   には小さな黒板が掛かっていて新商

   品やらお勧め品をシンプルに伝えて

   いる。その絵本にでも出てきそうな

   小さな店があまりにもあいつが好き

   そうだったものだから気付けば勝手

   に足が動きだしていた。扉を開けよ

   うと取手を手にした時、自分は一体

   どれだけあいつに甘いのかとおもわ

   ず笑いを噛み殺した。








   カラン。ドアの上に付いていた飾り

   が鳴ったのと同時に足を踏み入れる

   。いらっしゃいませと言う控えめな

   声が鼓膜を揺らした。カントリー調

   の店内を見渡すと広くはないものの

   ディスプレイされたあらゆる菓子が

   並んでいて少し驚く。思っていた以

   上に種類が多い。



   「…何にするかの」



   これだけ種類があるとさすがに何を

   買うか悩む。甘いのは何でも好きだ

   ったはずだが、出来れば一番喜んで

   もらえるようなのがいい。あいつの

   笑う顔が浮かんで菓子を選ぶ目もど

   ことなく真剣になった。



   「何かお探しですか?」

   「ああ。大したもんじゃなくて良い

   んじゃが、種類が多くてな。…さす

   がに迷うのう」

   「でしたらチョコレートなんていか

   がでしょうか」

   「チョコレート、か」

   「はい。実は新しく仕入れたばかり

   なんですけど」

   「見せてもらっていいか?」

   「はい。こちらです」



   笑顔で案内されたスペースには様々

   な一粒サイズのチョコレートが並ん

   でいた。包み紙が色鮮やかなそれは

   どうやらヨーロッパの方のものらし

   い。



   「元々は何粒かセットになってる物

   なんですけど、いろいろな国のもの

   を手軽に食べて欲しくて、こうして

   販売しているんです」

   「ほう。確かに手が出しやすいの」

   「そう言って頂けると嬉しいです」



   セットになっているものも良いが多

   少の好みがあるし値段もそれなりだ

   。少し買うのには有り難い。なによ

   りチョコレートと言われて思い出す

   言葉があった。



   「よし、これにする」



   柄にもなく浮かれた気分であいつが

   好きそうなものを選んだ。酒が入っ

   てるようなのでもビターなんかでも

   なくて、丸っこい形をしたトリュフ

   チョコ、なにかのモチーフのミルク

   チョコ。あまいあまいとろけるよう

   なチョコレート。




   チョコレートは恋の味

   彼女は昔、確かにそう言っていた




   選びに選んだチョコレートを手に店

   を出ると風が横を抜けて行った。階

   段の横に植えられた色んな色の花が

   揺れる。おもわず目を細めて想いを

   馳せた。早く、あいつに会いたい。











   ▽



   「はーい、どなたですか」

   「仁王くんじゃー」



   善は急げと向かった先はもちろん彼

   女の家でその足取りは驚く程軽かっ

   た。ガチャリと玄関のドアが開いて

   笑顔で招き入れられると何度も来て

   いるにも関わらず、なんだか不思議

   でむず痒い。そんな気持ちを隠すよ

   うにして小さくピヨ、と呟いてみる

   。その声が聞こえたのか彼女が声を

   出して笑ったので、これまた俺は罰

   が悪く、情けない顔をして家にお邪

   魔することになった。



   そのまま通された彼女の部屋は陽当

   たりがよく心地いい。小さなテーブ

   ルの前に座って他愛ない話に相槌を

   うちながら、がさりごそりと紙袋を

   取り出す。THANKSとスタンプ

   が押されただけのシンプルな紙袋は

   先ほどのあの店によく合っていた。



   「なにそれ?」

   「ほら。口、開けんしゃい」

   「え、なんで」

   「はーやくー」

   「えええ」

   「あーん」



   丁寧に包み紙を剥がして一粒差し出

   してやると目を輝かせてこちらを見

   る。今にも尻尾を振りだしそうだ。

   素直に開いた口の中にチョコレート

   をそっと入れてやるとこれでもかと

   と言うくらいに彼女の頬が弛んだ。



   「うまいか」

   「んー!おいしい!」

   「よかったのう」

   「これ、どうしたの?」

   「可愛い店があってな」

   「え!」

   「今度、一緒に行くか」

   「うん、行く!」

   「…よし、じゃあ約束じゃ」



   見せて見せてと言われ紙袋を渡して

   やると中を覗き込んでいろんなチョ

   コレートに感嘆の声をあげている。

   かわいい。すごい。おいしそう。そ

   んな声を飽きずに聞きながら、彼女

   に向けて大きく口を開ける。

   


   「あーん」

   「え?」

   「ほれ、俺にも」

   「え!やだよ、恥ずかしい」

   「やってくれないとその店連れてっ

   てやらんもん」



   拗ねる。真似をしてみる。ちらりと

   顔を窺ってみると自分以上に膨れっ

   面をした彼女がいた。ふはっ。おも

   わず笑った。なんじゃこいつ。かわ

   いい。



   「…もう!」

   「あーん」

   「…あーん。おいし?」

   「ん、うまいのう」

   「ふふふ」





   チョコレートは恋の味


   そう言って笑ったおまえを見て

   あの日、俺は恋におちた





   0912 end

   心情サーカス

   企画|食べて仕舞おう様 提出


   甘いものは差ほど好きじゃないけど

   喜ぶ顔が見たくてはしゃぐ仁王くん でした






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