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   彼は笑わなかった。

   その瞳は色をまったく映さず

   に真っ暗闇ばかりを映して、

   もちろん私も映さずに。



   そんな彼を見て誰も何も言わ

   なかった。ただひたすらじっ

   と見つめる。波音だけが船上

   に響くとても静かな時間だっ

   た。



   「…おい、エース」



   彼の瞳がゆらりと揺れ、大き

   な大きな船長を見る。哀しみ

   を色濃く映すその瞳に胸の奥

   がじくり、と痛んだ。



   「よく帰った、馬鹿息子」



   みるみるうちに彼の瞳が揺れ

   、光り、ぼろりと大粒の涙を

   何粒も流しだした。ひくつく

   喉を抑えたくても抑えきれず

   に泣きじゃくり、目に腕を擦

   りつけ涙を流すその姿があま

   りにも愛しくて嬉しくて視界

   がぐらりと揺らぐ。



   「…馬鹿野郎、」



   マルコが呟く。皆が笑う。涙

   を零す。愛しい、こんな時間

   がどうしようもなく愛しくて

   身体が震える。



   「、悪かっ…」





   ねぇ、エース。

   解ってよ。皆嬉しくて仕方な

   いの。貴方が居てくれて、生

   きててくれてよかった。口に

   は出さないけどそんな想いで

   いっぱいなんだよ。



   謝罪の言葉なんて本当は要ら

   ないの。貴方が居てくれれば

   皆と笑えれば、それだけで。

   けどきっと貴方は酷い罪悪感

   でうちひしがれているだろう

   から、その言葉は聞くだけ聞

   いておくよ。



   大きな手で顔を覆って流れ出

   す涙と一緒に悔しさも不甲斐

   なさも全部流してしまえばい

   い。





   「野郎ども、宴だー!」



   おー!馬鹿なエースの為だ!

   なんて皆が口々に言いながら

   品のかけらもなく笑って、ぎ

   ゃーぎゃー騒いで、でも目が

   きらきら光ってる。マルコな

   んて気付かれないように目頭

   押さえてさ。





   ねぇ、エース

   大好きよ





   どんなエースも大好きだけど

   やっぱり笑ってるエースが好

   きだから、笑ってよ。それだ

   けで私も笑えるから。









   おかえりなさい、

   いま、伝えに行くからね







   1227 Ace.



   





             end




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